子どもの咳が止まらない — 夜がひどいときの見方
咳が止まらない、夜になるとひどくなる——子ども・赤ちゃんの咳はとても身近な症状で、原因として一番多いのはかぜです。多くは数日のうちに落ち着いていきますが、クループ・RS ウイルス・喘息など原因はさまざまです。呼吸が苦しそう・唇が青い・息を吸うときにヒューヒュー音がする場合は、すぐに救急受診を検討してください。
結論:見るのは「咳の回数」ではなく「呼吸のようす」です
咳が続くと、つい回数や激しさを数えたくなります。ただ、受診を判断する軸はそこではありません。
日本小児科学会の「こどもの救急」は、危険なサインとして次の 4 つを挙げています。咳そのものではなく、呼吸のしかたを見てください。
- 陥没呼吸 — 呼吸のたびに鎖骨の上や肋骨の間がへこむ
- 肩呼吸 — 肩を上下させて、無理に胸をふくらませている
- 喘鳴(ぜんめい) — ゼーゼー・ヒューヒューという音がする
- 多呼吸 — 息が明らかに速い
これらに加えて「ぼーっとしている」「唇が紫」があれば、同学会は救急車を呼ぶとしています。
逆に、咳き込んではいても、呼吸が楽そうで、水分が取れて、機嫌が保たれているなら、おうちで様子を見られることがほとんどです。
咳は「止めるべきもの」ではありません
日本呼吸器学会は、咳を「体内から異物や病原体を出すための反射」と説明しています。つまり咳は、気道に入った異物・ウイルス・痰を外へ運び出すための、体を守るしくみです。
痰がからんだ咳を無理に止めてしまうと、出すべきものが気道に残ります。だから小児科では、咳を根こそぎ止める薬をあまり使いません。目指すのは「咳をゼロにすること」ではなく、「眠れて、飲めて、呼吸が楽な状態にすること」です。
咳の「音」で分かること
原因によって、咳や呼吸の音には特徴があります。おうちで区別しきる必要はありませんが、受診のときに伝えていただけると大きな手がかりになります。
| 音の特徴 | 考えられるもの |
|---|---|
| ケンケン・オットセイのような咳、声がかすれる | クループ症候群(急性喉頭炎) |
| 息を吸うときにヒューという音(吸気性喘鳴) | クループ、のどの腫れ、異物 |
| 息を吐くときにゼーゼー・ヒューヒュー | 喘息、細気管支炎(RS ウイルスなど) |
| 短い咳が連続し、続いて息を吸うときに笛のような音 | 百日咳 |
| 発熱とともに長引く乾いた咳 | マイコプラズマ肺炎 |
💡 音は録っておくと確実です。 診察室で都合よく同じ咳が出るとは限りません。夜にひどかった咳は、スマートフォンで動画を撮っておいてください。それだけで診断が決まることがあります。
いま注意したい百日咳 — 2025 年に記録的な流行
咳のなかで、いま特に気をつけていただきたいのが百日咳です。
国立健康危機管理研究機構の集計によると、2025 年は第 1〜44 週の届出だけで 84,911 例に達しました。2018 年は年間 12,118 例、2019 年は 16,847 例でしたから、桁が変わる規模の流行です。2024〜2025 年は 10 代の患者の割合が大きく増えたことも報告されています。
百日咳の咳には特徴があります。短い咳が連続的に起こり(スタッカート)、続いて息を吸うときに笛のような「ヒュー」という音が出ます(笛声・whoop)。この発作をくり返すことをレプリーゼと呼びます。
⚠️ もっとも心配なのは、ワクチンを打ち終わっていない赤ちゃんです。同機構は、乳児期早期では特徴的な咳が出ないまま、息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ・けいれん・呼吸停止へ進むことがあると説明しています。新生児では致命率が 3% にのぼるという記載もあります。「咳がひどくないから大丈夫」とは言えないのが、この病気の怖いところです。
予防接種では、2024 年 4 月から 5 種混合ワクチン(ジフテリア・百日せき・破傷風・ポリオ・Hib)が定期接種で使えるようになりました。初回は生後 2〜7 ヶ月に 3 回、その後に追加 1 回です。接種できる月齢になったら、できるだけ早く始めてください。百日咳ワクチンの免疫は 4〜12 年で弱まると見積もられており、まわりの大人から赤ちゃんへうつることもあります(→ 赤ちゃんを百日咳から守る)。
受診の目安
🚑 すぐ救急受診
以下に当てはまる場合は、夜間でも救急外来を受診してください。
- 息を吸うときのケンケンという咳やヒューという音(犬吠様咳嗽・笛声。クループ・異物等)
- 呼吸のたびに肋骨の間や鎖骨の上が大きくへこむ(陥没呼吸)
- 肩を上下させて息をしている(肩呼吸)
- 唇や指先が紫・青っぽい(チアノーゼ)
- 呼吸が苦しくて話せない・哺乳できない
- ぐったりして、ぼーっとしている
- 赤ちゃんが咳のあとに息を止める・顔色が変わる(百日咳の無呼吸発作の可能性)
🌅 翌朝に外来へ
翌朝以降の通常診療での受診をおすすめします。
- ケンケン咳が続くが元気はある
- 夜眠れないほど咳が止まらない
- 38℃以上の発熱を伴う
- 5日以上咳が続く
- 咳き込んで吐いてしまう
- 食事や水分の量が減ってきた
💚 様子を見て OK
ご家庭でのケアで様子を見てください。
- 軽い咳のみで呼吸は楽そう
- 機嫌が良く食欲もある
- 夜は眠れている
家庭でできるケア
日本小児科学会が家庭でのケアとして挙げているのは、次のような内容です。
- 水分をこまめに — 痰がやわらかくなり、出しやすくなります
- 部屋を加湿する — 加湿器のほか、濡れたバスタオルを干すのも有効とされています
- 鼻水を取る — 鼻水がのどに流れて咳が出ることがあります。鼻をかむ、市販の鼻吸い器を使う
- 上体を少し起こして寝かせる — 横になると咳が出やすくなります
- クループのときは、とにかく泣かせない — 同学会は「犬が吠えるような声の場合は、なるべく泣かせない様にすることが最も大切」としています。泣くとのどがさらに狭くなります
📌 正直な補足: これらは「害がなく、経験的に楽になりやすい」ケアです。たとえば加湿については、クループを対象にした研究をまとめた解析で症状スコアの明らかな改善は示されていません。効果を過信せず、あくまで過ごしやすくする工夫と考えてください。
やってはいけないこと
⚠️ 1 歳未満にハチミツを与えない
咳にハチミツ、という話を聞いたことがあるかもしれません。1〜18 歳を対象にした研究をまとめた解析では、ハチミツで咳のスコアが多少改善したと報告されています(ただしエビデンスの質は低い〜非常に低いとされています)。
しかし、1 歳未満には絶対に与えないでください。厚生労働省は乳児ボツリヌス症の予防のため、1 歳未満へのハチミツを避けるよう注意喚起しています。2017 年には、生後 5 ヶ月の乳児がハチミツを混ぜた離乳食を与えられて発症し、亡くなった事例が起きています。1 歳以上であればこの心配はありません。
⚠️ 市販の咳止めを自己判断で使わない
コデイン・ジヒドロコデインを含む医薬品は、呼吸抑制のリスクを減らすため、医療用医薬品では 2019 年 7 月から「12 歳未満」が禁忌とされています。市販のかぜ薬・鎮咳去たん剤についても、2017 年の通知で「12 歳未満の小児には、医師の診療を受けさせることを優先すること」という文言が加えられました。
市販薬を使う前に成分表示を確認し、咳がつらそうなときは受診をおすすめします。
そのほか
- 咳を完全に止めようとしない — 上に書いたとおり、咳は気道を守る反射です
- 前に処方された薬の残りを飲ませない — 咳の原因が違えば必要な薬も違います
- タバコの煙にさらさない — 受動喫煙は咳を悪化させます
何日続いたら受診でしょうか
咳の長さは、医学的には次のように区分されています(日本小児呼吸器学会「小児の咳嗽診療ガイドライン 2020」)。
- 急性咳嗽 — 3 週間未満
- 遷延性咳嗽 — 3 週間以上 8 週間未満
- 慢性咳嗽 — 8 週間以上
かぜによる咳の多くは急性咳嗽の範囲で落ち着きます。目安としては、5 日以上続くときに一度ご相談ください。また、かぜが治ったあとに咳だけが 3 週間以上残る場合や、同じパターンの咳をくり返す場合は、喘息など別の原因がないか調べる価値があります。
喘息を疑うサイン
日本小児アレルギー学会の患者さん向け資料は、喘息にみられる症状として次を挙げています。大切なのは「1 回きり」より「くり返し」です。
- ヒューヒュー・ゼーゼーする
- 夜に咳で眠れない/明け方に咳で目が覚める
- 咳き込んで吐いてしまう
- 運動するとゼーゼーする・息苦しくなる
- ホコリや煙を吸うと咳き込む
- 横になっていると咳が出るのがつらい
- 笑うと咳が出る
これらをくり返している場合は、一度ご相談ください。診察でこれまでの経過を一緒に整理します。
突然の激しい咳 — 誤嚥を疑うとき
それまで元気だったお子さまが、何かを口にした直後に急に激しく咳き込んだときは、気道に異物が入った可能性を考えます。
日本小児科学会は、子どもは咳をする力が弱く、気管に入りそうになったものを咳で押し返すことがうまくできないと注意を促しています。危険な食品として、丸くつるっとしたもの(ブドウ、ミニトマト、ピーナッツなど)、粘着性が高いもの(餅、パン類)、固くて噛み切りにくいもの(リンゴ、生のにんじん、イカなど)が挙げられています。
呼吸が苦しそう・顔色が変わる場合は、すぐに救急要請してください。
関連する主な疾患
咳の原因としてよくある病気です。それぞれの詳しい解説ページをご用意しています。
- クループ症候群 — ケンケンという咳・夜に強くなりやすい
- 百日咳 — 連続する咳と笛のような音。乳児は重症化する
- マイコプラズマ肺炎 — 長引く乾いた咳と発熱
- ヒトメタニューモウイルス感染症 — 春先に多い咳とゼーゼー
- インフルエンザ — 急な高熱とともに出る咳
このほか、乳児のゼーゼーの原因として RS ウイルス感染症・細気管支炎、くり返す咳の原因として喘息・急性気管支炎があります。
当院での診療
当院は自由が丘駅徒歩 1 分。咳の診察では、聴診に加えて「いつ・どんな音の咳が・どれくらい続いているか」をうかがいます。夜の咳の動画があれば、ぜひ見せてください。当日のご予約は Web・LINE から承ります。
よくある質問
Q. 市販の咳止めは使ってよい?
自己判断での使用はおすすめしません。コデイン・ジヒドロコデインを含む薬は、医療用では 12 歳未満が禁忌とされており、市販薬でも「12 歳未満は医師の診療を優先」とされています。成分表示を確認し、咳がつらそうなときは受診してください。
Q. ゼーゼーとヒューヒューの違いは?
どちらも空気の通り道が狭くなったときに出る音で、手がかりになるのは「いつ鳴るか」です。喘息や細気管支炎では息を 吐くとき にゼーゼー・ヒューヒューという笛のような音がしやすく、クループでは息を 吸うとき にヒューという音(吸気性喘鳴)やケンケンという咳が出るのが特徴です。音の区別はご家庭では難しいので、可能ならスマホで動画を撮っておくと診察の大きな手がかりになります。
Q. 夜だけ咳がひどくなるのは?
横になると、のどの腫れている部分が狭くなりやすいことなどから、咳は夜に強く出やすくなります。「日中はけろっとしているのに夜だけケンケン咳」はクループでよく見られる経過です。また、夜間から明け方に強くなる咳を何度もくり返す場合は、喘息を疑う手がかりのひとつになります。詳しくは クループ症候群 のページをご覧ください。
Q. 何日続いたら受診?
目安は 5 日以上続くとき です。医学的には 3 週間未満を急性、3〜8 週を遷延性、8 週以上を慢性の咳と区分します。かぜが治ったあとに咳だけが 3 週間以上残る・同じパターンの咳をくり返す場合は、別の原因がないか一度ご相談ください。
Q. ハチミツを舐めさせてもよい?
1 歳未満には絶対に与えないでください(乳児ボツリヌス症の危険があり、国内で死亡例があります)。1 歳以上であれば与えて構いません。咳への効果を示した研究はありますが、エビデンスの質は高くないため、「効くこともある」程度に考えてください。
Q. 喘息の受診の目安は?
「1 回きりの咳」よりも「同じパターンのくり返し」が手がかりです。息を吐くときのゼーゼー・ヒューヒュー、夜間〜明け方に強くなる咳、運動後・笑った後の咳、かぜのあとに長引く咳——こうした症状をくり返している場合は、一度ご相談ください。
Q. 咳がひどくて吐いてしまいます
咳き込みで吐くこと自体は、子どもではよくあります。吐いたあとに機嫌が戻り、水分が取れていれば緊急ではありません。ただし、咳き込んで吐くのは喘息のサインのひとつでもあり、また百日咳でもみられます。くり返す場合は受診してください。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構. 感染症情報提供サイト「百日咳(詳細版)」. https://id-info.jihs.go.jp/infectious-diseases/pertussis/detail/index.html(参照: 2026-09-06)
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- 一般社団法人日本小児アレルギー学会. 患者さん向け 小児ぜん息治療ガイドライン. https://www.jspaci.jp/assets/documents/childhood-asthma-guideline.pdf(参照: 2026-09-06)
- 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長. コデインリン酸塩水和物等を含む医薬品の「使用上の注意」改訂の周知について(薬生安発0709第11号, 2019年7月9日). https://www.pmda.go.jp/files/000230453.pdf(参照: 2026-09-06)
- 厚生労働省. 蜂蜜を原因とする乳児ボツリヌス症による死亡事案について(2017年4月7日事務連絡). https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000161263.pdf(参照: 2026-09-06)
- 公益社団法人日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会. 食品による窒息 子どもを守るためにできること(2025年8月改訂 Ver.3). https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20250902_chissoku_Ver3.pdf(参照: 2026-09-06)
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この記事の監修
院長 山口いぶき(日本小児科学会 専門医)
最終更新:2026 年 9 月 6 日