百日咳から赤ちゃんを守る — 大流行のあと、いま家族ができること
大切なのは 2 点です。生後 2 か月になったら、すぐにワクチンを始めること。そして、咳が長引いている大人こそ、赤ちゃんに近づく前に受診すること。
百日咳は、2025 年に記録的な大流行がありました。 そして 2026 年、報告数は大きく減りました。
減ったとはいえ、2024 年以前の水準には戻っていません。 そして百日咳という病気は、流行が大きいか小さいかにかかわらず、生後 6 か月未満の赤ちゃんには重いという性質を持っています。
「咳が 3 週間止まらないけれど、熱はないし元気だから」——そのまま生活されている方が多い病気です。 ご本人は軽くても、まだワクチンを打ち終えていない赤ちゃんにとっては命に関わることがあります。
このページで扱うこと
- いま百日咳はどれくらい出ているのか(数字で)
- なぜ赤ちゃんだけ危ないのか
- ワクチンをいつ・何回打つのか(任意の追加接種があります)
- 家族が打って赤ちゃんを守る「コクーン戦略」
- 「抗菌薬が効かない」タイプについて
- 受診の目安
いま、百日咳はどれくらい出ているのか
国の感染症発生動向調査(全数把握)の数字を並べてみます [1]。
| 年 | 東京都の累積報告数 | 全国の累積報告数 |
|---|---|---|
| 2023 年(通年) | 116 件 | 1,009 件 |
| 2024 年(通年) | 394 件 | 4,054 件 |
| 2025 年(第 34 週まで) | 5,259 件 | 69,797 件 |
| 2026 年(第 34 週まで) | 527 件 | 4,144 件 |
2025 年がいかに突出していたかが分かります。全国では第 1〜44 週だけで 84,911 例 と、 それまでの 1 年分の届出数を大きく上回る年でした [2]。
2026 年は、その約 10 分の 1 の水準です。 大きな波は、いったん過ぎました。
2026 年はまだ 8 月の時点(第 34 週)で、2024 年の 1 年分を超えています。 東京都で 527 件 対 394 件、全国で 4,144 件 対 4,054 件。 目黒区も「2026 年の患者数は 2025 年に比べると低い値で推移していますが、例年より高い値が続いています」と案内しています [3]。
つまり、いまは 「大流行は終わったが、以前より多い状態が続いている」 という位置づけです。
これは、悪いニュースばかりではありません。 流行のさなかに慌てて動くのではなく、落ち着いてワクチンのスケジュールを整えられる時期だということでもあります。
どんな病気か — 大人は軽く、赤ちゃんは重い
百日咳は「特有のけいれん性の激しい咳発作を呈する急性の気道感染症」です [3]。連続した短い咳のあとに、息を吸うときヒューッと音が鳴る発作が特徴とされます。
問題は、年齢によって見え方がまったく違うことです。
| 経過の特徴 | |
|---|---|
| 大人 | 咳は長期間続くが、比較的軽い症状で経過することが多い [3] |
| 1 歳未満、特に生後 6 か月未満 | 重症化しやすく、まれに死に至ることもある [3] |
日本小児科医会の提言には、生後 6 か月未満の乳児は「無呼吸発作・肺炎・脳症などにより重篤化しやすく、入院率・死亡率は他年齢層を大きく上回る」と記載されています [4]。
赤ちゃんの百日咳は、あの特徴的な咳が出ないことがあります。代わりに「息が止まる(無呼吸発作)」「顔色が悪くなる」という形で現れることがあり、気づきにくいのが怖いところです。
そして、2024 年には国内で生後 1 か月の女児が、マクロライド耐性の百日咳菌に感染して亡くなった事例が報告されています [4]。
この年齢の子は、まだ自分でワクチンを打ち終えていません。 周りの大人が守るしかない時期です。
生後 2 か月になったら、すぐに始めてください
百日咳のワクチンは、国内では五種混合ワクチンとして生後 2 か月から始められます [4]。目黒区も「定期接種の対象となる生後 2 カ月になったら、すぐにワクチンを接種しましょう」と案内しています [3]。
「2 か月はまだ小さいから、もう少し大きくなってから」とお考えになる方がいらっしゃいますが、この病気に関しては逆です。最も重症化しやすい時期を、ワクチンなしで過ごすことになってしまいます。
流行が落ち着いている今こそ、この基本を崩さないことが大切です。 報告数が減ると「もう打ち急がなくてもいいのでは」と感じやすいのですが、 赤ちゃんが重症化しやすいという性質は、流行の大小では変わりません。
見落とされやすい「任意の追加接種」
もうひとつ、あまり知られていないことがあります。定期接種だけでは、就学前後に免疫が下がってくるという点です。
目黒区は「定期予防接種により免疫を得ていても、小学校就学前にワクチンの効果が薄まるため、 日本小児科学会では任意での 2 回の追加接種(就学前 1 年間、11 から 12 歳)を推奨しています」と案内しています [3]。 日本小児科医会の提言も、この 2 回を任意と整理しています [4]。
| 時期 | 位置づけ |
|---|---|
| 生後 2 か月〜(五種混合) | 定期接種(公費) |
| 就学前 1 年間 | 任意接種(学会推奨) [3][4] |
| 11〜12 歳 | 任意接種(学会推奨) [3][4] |
日本小児科医会の提言でも「就学前(4〜6 歳)および 11〜12 歳の追加接種は任意」と整理されています [4]。 任意=自己負担なので、案内が届かず気づかないまま過ぎてしまうご家庭が多いところです。
📌 公費の対象(定期接種か任意接種か)は制度改正や自治体の判断で変わることがあります。 接種時点の取り扱いは、お住まいの自治体の案内か当院でご確認ください。
家族が打って赤ちゃんを守る「コクーン戦略」
日本小児科医会は、「両親・介護者・近親者へ接種して乳児を間接的に守るコクーン戦略が最重要」としています [4]。コクーン(cocoon)は「まゆ」のこと。まだ守られていない赤ちゃんを、周りの免疫で包んで守るという考え方です。
赤ちゃんに百日咳をうつすのは、多くの場合同居している家族です。しかも大人は軽症で経過しやすいため、「ただの長引く咳」として日常を過ごしているうちに、うつしてしまいます。
第 2 子以降のご家庭では、上のお子さんが保育園・幼稚園でもらってきて、赤ちゃんにうつるという経路も現実的です。上のお子さんの「就学前の追加接種」が効いてくるのはここです。
なお、海外では妊娠中に母親が接種して赤ちゃんに免疫を渡す方法が広く行われており、日本小児科医会も「妊娠 27〜36 週の妊婦への DPT 接種助成を早急に推奨する」と提言しています [4]。現時点では国の助成制度にはなっていません。
「抗菌薬が効かない」タイプが増えています
日本小児科医会の提言には、マクロライド耐性百日咳菌(MRBP)が東アジアを中心に拡大し、国内でも検出されること、そして「近年はマクロライド系以外の抗菌薬にも耐性を示す株が報告されている」ことが記載されています [4]。
百日咳の治療にはマクロライド系の抗菌薬が使われてきました。その第一選択が効かない菌が増えている、ということです。
これは「治せない」という意味ではありませんが、「薬を飲み始めたのに咳が良くならない」ときに、自己判断で様子を見続けないでほしい理由になります。処方を受けた後も改善しないときは、もう一度ご相談ください。
病気そのものの経過・検査・治療について詳しくは、百日咳(疾患ページ) にまとめています。
受診の目安
🚑 すぐに受診・救急
- 赤ちゃんの息が止まる(無呼吸)・顔色や唇の色が悪い
- 咳き込んで呼吸ができない、ぐったりしている
- 生後 6 か月未満で、咳が出ている
🌅 早めに外来へ
- 咳が2 週間以上続いている(熱がなくても)
- 咳のあとにヒューッと音が鳴る、咳き込んで吐く
- 夜間に咳の発作が強くなる
- ご家族に長引く咳の方がいて、ご家庭に赤ちゃんがいる
💚 あわせてご相談ください
- 上のお子さんの就学前・11〜12 歳の追加接種をどうするか
- ご家族(保護者・祖父母)の接種をどう考えるか
「大人だから大丈夫」ではなく、「赤ちゃんに会う予定があるかどうか」で考えていただきたい病気です。
よくあるご質問
Q. 流行が落ち着いたのなら、ワクチンは急がなくてもよいですか?
急いでいただきたいです。報告数が減っても、生後 6 か月未満の赤ちゃんが重症化しやすいという性質は変わりません [4]。また 2026 年の報告数は、2025 年より少ないものの 2024 年以前より多い水準が続いています [1][3]。流行が落ち着いている今は、慌てずにスケジュールを整えられる時期です。生後 2 か月になったらすぐに始めるという基本を崩さないでください。
Q. 熱がありません。それでも百日咳のことがありますか?
あります。百日咳は熱が高くならないことが多く、「元気なのに咳だけが続く」という形をとりやすい病気です。大人では「咳は長期間続くが、比較的軽い症状で経過することが多い」とされています [3]。咳が 2 週間以上続いているときは、熱の有無にかかわらずご相談ください。
Q. ワクチンを打っていれば絶対にかかりませんか?
かからなくなるわけではありません。ワクチンで得た免疫は年月とともに下がっていくため、日本小児科学会は就学前 1 年間と 11〜12 歳での任意の追加接種を推奨していると、目黒区が案内しています [3][4]。打っていてもかかることはありますが、重い経過をとりにくくなります。
Q. 赤ちゃんがいます。上の子や親は何をすればよいですか?
日本小児科医会は「両親・介護者・近親者へ接種して乳児を間接的に守るコクーン戦略が最重要」としています [4]。具体的にどのワクチンをいつ打つかは、これまでの接種歴やご家族の状況によって変わりますので、赤ちゃんの受診のときに一緒にご相談ください。
Q. 保育園はいつから行けますか?
百日咳は学校保健安全法で出席停止の対象となる感染症で、特有の咳が消えるまで、または 5 日間の適正な抗菌薬による治療を終了するまでが目安とされています。実際の登園再開は園の指示と経過によりますので、診察でご確認ください。詳しくは 登園・登校はいつから? にまとめています。
Q. 妊娠中ですが、ワクチンを打てますか?
海外では妊娠中の接種が広く行われており、日本小児科医会も妊娠 27〜36 週での接種助成を提言していますが [4]、現時点では国の助成制度にはなっていません。実施の可否はかかりつけの産婦人科でご相談ください。当院グループの レディースクリニックなみなみ でも、妊娠中のワクチンについてご相談いただけます。
Q. 咳止めを飲めば治りますか?
百日咳の咳は、市販の咳止めでは止まりにくいことが知られています。また、赤ちゃんの場合は咳そのものより無呼吸が問題になります。市販薬で様子を見るより、診断をつけることを優先してください。
長引く咳のご相談
自由が丘キッズクリニックまるまるは、自由が丘駅から徒歩1分の小児科です。長引く咳や、ご家族の予防接種のご相談は、Web または LINE からご予約ください。
参考文献
- 国立健康危機管理研究機構. 感染症発生動向調査 週報(IDWR)速報データ「報告数・累積報告数、疾病・都道府県別」(2026 年第 34 週・2025 年第 34 週・2024 年第 52 週・2023 年第 52 週の各 CSV より集計). https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/provisional/2026/34/2026-34-zensu.csv (閲覧: 2026-09-04)
- 国立健康危機管理研究機構. 百日咳 2025 年 11 月現在. IASR Vol.47 No.1 (No.551). https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/pathogens/vol47/551/551t.html (閲覧: 2026-09-04)
- 目黒区. 感染症流行情報 百日咳が流行しています(2026 年 3 月 30 日更新). https://www.city.meguro.tokyo.jp/hokenyobou/kenkoufukushi/iryou/hyakunitizeki.html (閲覧: 2026-09-04)
- 公益社団法人日本小児科医会. 百日咳対策 ― 現状分析と提言. https://www.jpa-web.org/blog/member/a413 (閲覧: 2026-09-04)
この記事の監修
院長 山口いぶき(日本小児科学会 専門医)
最終更新:2026 年 9 月 4 日