エヌフロンシアとは — ベイフォータスとの違いと、赤ちゃんのRSウイルス予防
2026年6月19日、赤ちゃんをRSウイルスから守る新しい注射「エヌフロンシア®筋注シリンジ105mg」(一般名:クレスロビマブ)が承認されました。
秋から冬にかけて、生まれて初めてRSウイルスの流行期を迎える赤ちゃんがいます。「ゼーゼーして苦しそう」「入院になる子もいると聞いて不安」——そう感じて調べていらっしゃる方が多い時期です。
このページでは、エヌフロンシアがどういうお薬なのかを、承認内容と日本小児科学会のガイドラインの記載にもとづいてご説明します。「うちの子に必要かどうか」は月齢・ご家族の状況・その年の流行によって変わりますので、結論はここでは出しません。診察でご相談いただくための土台までをお伝えします。
RSウイルス感染症そのもの(症状・受診の目安)は RSウイルス感染症準備中 に、乳児のゼーゼーについては 細気管支炎準備中 にまとめています。
これは「ワクチン」ではなく「抗体」のお薬です
まず、いちばん誤解されやすいところからご説明します。
一般的なワクチンは、弱めた病原体などを体に入れて、自分の体に免疫をつくってもらうお薬です。効果が出るまでに時間がかかりますが、長く続きます。
一方エヌフロンシアは、できあがった抗体そのものを注射するお薬です。免疫を「自分でつくる」のではなく「借りる」形なので、打った直後から働き、そのシーズンのあいだ守るという設計になっています。
| ワクチン | エヌフロンシア(抗体) | |
|---|---|---|
| しくみ | 自分の体が免疫をつくる | できあがった抗体を注射する |
| 効き始め | 数週間かかる | 打った後から |
| 守る期間 | 長い(種類による) | 生後初回の流行シーズン |
赤ちゃんは免疫のしくみがまだ育っている途中で、ワクチンで自分の免疫をつくってもらうのが難しい時期があります。そこを抗体で補うのがこのお薬の考え方です。
何が承認されたのか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 販売名 | エヌフロンシア®筋注シリンジ105mg |
| 一般名 | クレスロビマブ(遺伝子組換え) |
| 承認日 | 2026年6月19日 |
| 製造販売元 | MSD株式会社 |
| 用法・用量 | 体重にかかわらず105mgを1回、筋肉内注射 [1][2] |
効能・効果は、次の2つが承認されています [2]。
- 生後初回のRSウイルス感染流行期の、重篤なRSウイルス感染症のリスクを有する新生児・乳児における、RSウイルス感染による下気道疾患の発症抑制
- 生後初回のRSウイルス感染流行期の、1.以外のすべての新生児・乳児における、RSウイルス感染による下気道疾患の予防
つまり「早産や心臓の病気があるお子さん」だけでなく、元気に生まれたすべての赤ちゃんが対象に含まれているというのがこれまでとの大きな違いです。
なお1.の「リスクを有する」に当たるのは、日本小児科学会のガイドラインでは在胎期間35週以下の早産で12か月齢以下、過去6か月以内に慢性肺疾患の治療を受けた12か月齢以下、12か月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患、12か月齢以下のダウン症候群、と整理されています [1]。
【いちばん多いご質問】ベイフォータスとの違い
すでに「ベイフォータス」という名前をご存じの方も多いと思います。同じくRSウイルスを防ぐ抗体のお薬(一般名:ニルセビマブ)です。どちらも抗体を1回筋肉注射するという点では同じ考え方のお薬ですが、はっきり違うところがあります。
| エヌフロンシア | ベイフォータス(ニルセビマブ)/シナジス(パリビズマブ) | |
|---|---|---|
| 投与量 | 体重にかかわらず105mgを1回 | 体重に応じて決める |
| 費用の扱い | 自由診療(健康保険適用外) [1] | 薬価基準に収載され、主にハイリスク児に対して健康保険適用で使われている [1] |
| 主な位置づけ | すべての新生児・乳児の予防に広く寄与 [1] | ハイリスク児への保険診療が中心 [1] |
費用の扱いが違うというのが実務上いちばん大きな差です。日本小児科学会のコンセンサスガイドラインには、エヌフロンシアについて「クレスロビマブは自由診療(健康保険適用外)として提供される医薬品であり」と明記されています [1]。
もうひとつ、すでにシナジス(パリビズマブ)を使っているお子さんについては、ガイドラインに「パリビズマブから本剤への切替えは避けること」と記載されています [1]。途中で切り替えるお薬ではない、という点はご家族にも知っておいていただきたいところです。
どちらを選ぶかは、月齢・基礎疾患の有無・保険適用になるかどうかで変わります。自己判断ではなく、診察のうえで決めるお薬です。
どのくらい効くと報告されているのか
承認の根拠になった臨床試験では、次のように報告されています [2]。
| 試験 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| CLEVER試験 | 健康な赤ちゃん | RSウイルスによる下気道疾患を 60.4% の有効率で低下 |
| 同上(副次評価) | 同上 | RSウイルスによる入院を84.2% の有効率で低下 |
| SMART試験 | 重症化リスクのある赤ちゃん | パリビズマブ群とおおむね同程度 |
注目していただきたいのは、「かからなくなる」お薬ではないということです。下気道疾患そのものを6割ほど減らし、入院に至るような重い経過は8割強減らす、という読み方になります。かかっても軽く済む可能性を上げるお薬、とご理解ください。
いつ打つのか — 「流行の入り口」で打つお薬です
日本小児科学会のガイドラインでは、「RSウイルス感染流行初期において」投与するとされています [1]。
RSウイルスの流行時期は地域によって差があるため、「各都道府県における直近数年間の感染症発生動向調査に基づく」判断が必要とされ、流行時期が不明確な地域では生後退院時などに投与することも選択肢として挙げられています [1]。
秋の入り口は他の予防接種も立て込む時期です。打つ順番とタイミングは、その年の流行の立ち上がりを見ながら組みます。
妊娠中にRSウイルスのワクチンを打った方へ
妊娠中に接種して赤ちゃんに免疫を渡す方法(母子免疫)もあります。ガイドラインでは、妊婦がRSワクチンを接種していない場合、または接種後14日以内に赤ちゃんが生まれた場合に、クレスロビマブの投与を検討するとされています [1]。
「妊娠中に打ったかどうか」「いつ打ったか」で判断が変わりますので、母子健康手帳や妊娠中の記録をお持ちいただけると話が早いです。
つまり、赤ちゃんを RS ウイルスから守る方法は ①妊娠中にお母さまがワクチン(アブリスボ)を打つ ②生まれた赤ちゃんに抗体(エヌフロンシア等)を打つ の 2 つがあり、どちらか一方を選ぶのが基本です。①については、同じグループのレディースクリニックなみなみの解説をご覧ください。
これから出産される方は妊娠中の接種を、すでに生まれている赤ちゃんは抗体の投与を、それぞれご検討ください。ご家族の状況にあわせて、どちらが向いているかをご相談いただけます。
当院での取り扱いについて
自由が丘キッズクリニックまるまるは2026年10月に開院予定です。エヌフロンシアは承認されたばかりのお薬のため、当院での取り扱いや費用については、開院時に改めてご案内します。
予防接種全般のご案内は 予防接種のご案内準備中 をご覧ください。「上の子のときと違うと言われて混乱している」「何をどの順番で打てばいいか分からない」——そうしたご相談から始めていただいて構いません。
よくあるご質問
Q. うちの子は元気に生まれました。それでも対象になりますか?
承認された効能・効果には「1.以外のすべての新生児及び乳児」という項目が含まれており、早産や基礎疾患のないお子さんも対象に含まれています [2]。ただし実際に投与するかどうかは、月齢・その年の流行状況・費用の扱いなどを踏まえて診察で判断します。
Q. ワクチンのように何回も打つ必要がありますか?
用法・用量は「体重にかかわらず105mgを1回、筋肉内注射する」と定められています [1]。生後初回の流行シーズンを対象としたお薬です。
Q. 保険は効きますか?
日本小児科学会のガイドラインには「クレスロビマブは自由診療(健康保険適用外)として提供される医薬品であり」と記載されています [1]。一方、パリビズマブ(シナジス)やニルセビマブ(ベイフォータス)は薬価基準に収載されており、主にハイリスクのお子さんに対して健康保険適用で使われています [1]。どれに当たるかで負担が変わりますので、診察でご確認ください。
Q. いまシナジスを打っています。こちらに変えたほうがよいですか?
ガイドラインには「パリビズマブから本剤への切替えは避けること」と記載されています [1]。自己判断で中断せず、いま通っている医療機関にご相談ください。
Q. これを打てばRSウイルスにかからなくなりますか?
かからなくなるお薬ではありません。臨床試験では下気道疾患を60.4%、入院を84.2%の有効率で低下させたと報告されています [2]。重い経過をとりにくくするお薬とお考えください。打った後でもゼーゼーや呼吸のしんどさがあれば受診してください(受診の目安 →準備中)。
RSウイルスのご相談
自由が丘キッズクリニックまるまるは、自由が丘駅から徒歩1分の小児科です。赤ちゃんのRSウイルス対策や予防接種のスケジュールについては、Web または LINE からご予約ください。
参考文献
- 日本小児科学会. 日本におけるクレスロビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン. https://www.jpeds.or.jp/society-activities/column/gideline/70187.html (閲覧: 2026-08-21)
- MSD株式会社. すべての新生児および乳児を対象とする長期間作用型抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤「エヌフロンシア®」製造販売承認を取得(2026年6月19日). https://www.msd.co.jp/news/product-news-20260619/ (閲覧: 2026-08-21)
この記事の監修
院長 山口いぶき(日本小児科学会 専門医)
最終更新:2026 年 8 月 21 日