子どもが頭を打った(頭部外傷) — 受診の目安と家庭でのケア
子どもが頭を打つことはとてもよくあり、その多くはたんこぶ程度で大事にはいたりません。打った直後に大きな声で泣き、すぐ機嫌が戻れば、まずは落ち着いて様子を見て大丈夫です。ただし意識がぼんやりする・繰り返し吐く・けいれんなどのサインは急いで受診が必要です。打ったあと24〜48時間は、いつもと様子が変わらないかを見てあげてください。
結論:打った直後に泣いて、機嫌が戻れば、多くは大丈夫です
まず知っておいていただきたいのは、打った直後に大きな声で泣けたということ自体が、意識がはっきりしているサインだということです。
そのあと機嫌が戻り、いつもどおり遊んで、水分や食事が取れていれば、おうちで様子を見て構いません。見ていただきたいのは、たんこぶの大きさではなく次の 3 つです。
- 意識・反応 — 呼びかけに普通に応じるか。ぼんやりしていないか
- 嘔吐 — 繰り返し吐かないか
- 機嫌・動き — いつもと違うところはないか。手足の動きに左右差はないか
逆に、打った瞬間に泣かなかった・反応が乏しいときは、すぐに受診してください。
医師はどこを見て「CTを撮るか」を決めているのか
「頭を打ったら CT を撮ってもらったほうが安心では」と思われるかもしれません。しかし小児では、撮らずに済むならそのほうがよいという考え方が世界的に共有されています。
理由は放射線被曝です。英国で 17 万人規模を追跡した研究(Lancet 2012)では、CT による累積の骨髄線量が 30mGy 以上の群で白血病のリスクが 3.18 倍、脳への累積線量 50〜74mGy の群で脳腫瘍のリスクが 2.82 倍と報告されました。子どもの体は放射線の影響を受けやすく、その後の人生も長いためです。
そこで使われているのが PECARN ルールという判断の目安です。北米の 25 施設で 42,412 人を対象に作られたもので(Lancet 2009)、2 歳未満と 2 歳以上で基準が分かれます。
| 2 歳未満 | 2 歳以上 | |
|---|---|---|
| 意識 | 意識レベルが正常 | 意識レベルが正常 |
| 意識消失 | なし、または 5 秒未満 | なし |
| 嘔吐 | — | なし |
| たんこぶ | 前頭部以外の頭皮血腫がない | — |
| 骨折 | 触って分かる頭蓋骨骨折がない | 頭蓋底骨折の徴候がない |
| 頭痛 | — | 強い頭痛がない |
| 受傷のしかた | 重症の受傷機転でない | 重症の受傷機転でない |
| 保護者の印象 | 普段どおりに見える | — |
これらをすべて満たす場合、頭の中の重要な損傷がある可能性は極めて低いとされます(この研究での陰性的中率は 2 歳未満で 100%、2 歳以上で 99.95%)。
「保護者から見て普段どおりかどうか」が正式な判断項目に入っている点に注目してください。毎日見ているご家族の「なんだかいつもと違う」は、医学的にも根拠のある情報です。遠慮なくお伝えください。
⚠️ 日本の学会がまとめた提言も、この PECARN を含む 3 つの基準を比較して紹介しています。ただし同提言は、これらのルールは虐待による頭部外傷の検出には鋭敏ではないという注意も明記しています。
たんこぶは「大きさ」より「場所」
意外に思われるかもしれませんが、たんこぶ(頭皮下の血腫)はできた場所によって意味が違います。
PECARN の元データを見ると、頭の中に重要な損傷があった 2 歳未満のお子さまでは、たんこぶの場所は側頭部または頭頂部が 48.5% を占めていました。一方、損傷がなかった子ではこの場所は 9.6% にとどまります。
逆に前頭部(おでこ)のたんこぶは、損傷があった子で 7.2%、なかった子で 28.2% と、むしろ損傷のなかった子に多いという結果でした。だから 2 歳未満の低リスク条件は「前頭部以外の頭皮血腫がないこと」という書き方になっています。
つまり——
- おでこのたんこぶ — よくあることで、比較的心配が少ない
- 横(側頭部)・上(頭頂部)・後ろのたんこぶ — より注意して見る必要がある
もちろん場所だけで決まるわけではありませんが、受診時に「どこを打ったか」を伝えていただく意味は、ここにあります。
どのくらいの高さから落ちたら危険か
PECARN では「重症の受傷機転」の一つとして転落の高さを次のように定義しています。
- 2 歳未満 — 約 0.9m(3 フィート)を超える転落
- 2 歳以上 — 約 1.5m(5 フィート)を超える転落
ただし、低ければ安全というわけではありません。消費者庁の分析では、入院を要した子どもの転落事故のうち高さが分かる 250 件を見ると、0.5m 未満の転落 18 件でも、頭蓋内損傷が 10 件、骨折が 2 件発生していました。ソファやベッドからの転落を「たいしたことない」と決めつけないでください。
受診の目安
🚑 すぐ救急受診
以下に当てはまる場合は、夜間でも救急外来を受診してください。様子がおかしく動かせない・反応が乏しいときは、ためらわず 119番へ。迷うときは小児救急電話相談 #8000 に電話してください。
- 意識がない・呼びかけてもぼんやりしている・すぐ眠り込む
- 繰り返し吐く(嘔吐)
- けいれん(ひきつけ)を起こした
- へこんでいる・とても大きく柔らかいたんこぶ(こぶ)がある
- 出血が止まらない、耳や鼻から出血や透明な液が出る
- 手足の動きや目つきがおかしい・左右で差がある
- 機嫌や様子がいつもと明らかに違う
- 赤ちゃんが、ミルクの時間になっても起きない
- 高いところ(2歳未満は約0.9m超、2歳以上は約1.5m超)からの転落や、強い衝撃で打った
- 赤ちゃん、特に生後3ヶ月未満が頭を打った
🌅 翌朝に外来へ
翌朝以降の通常診療での受診をおすすめします。
- 元気はあるが、頭を痛がる・1回だけ吐いた
- たんこぶの腫れや痛みが時間とともに強くなる
- 側頭部・頭頂部・後頭部を打ってたんこぶができた
- 打ったところが気になり、念のため診てもらいたい
💚 様子を見てOK
ご家庭でのケアで様子を見てください。
- 打った直後に泣き、すぐ機嫌が戻った
- おでこに小さなたんこぶができただけ
- いつもどおり遊び、水分や食事が取れている
家庭でできるケア
- 冷やす:打ったところを保冷剤や氷水で20分ほど冷やすと、腫れや内出血が小さくすみます(赤ちゃんは冷やしすぎに注意)
- 静かに過ごす:当日は室内で静かに。激しい遊びや入浴は控えめにしてください
- 寝かせて大丈夫:眠ること自体は問題ありません。ただし、呼びかけや刺激で普通に反応するかは、ときどき確かめてください。学会の提言が家族向けに示している受診サインにも「赤ちゃんがミルクの時間になっても起きない」が挙げられています。眠っていること自体ではなく、起こしたときに起きるかが見るポイントです
- 見守る時間:日本の学会の提言では、家族向けの説明として 1歳以上は24時間、1歳未満は48時間程度の経過観察がすすめられています。とくに最初の数時間は、できるだけそばで様子を見てあげてください
いつまで注意すればよいか
最初の数時間がもっとも注意が必要で、家族向けには 1歳以上で24時間、1歳未満で48時間 が目安とされています。
ただし、学会の提言は「頭部CTで異常がない場合にも、後に頭蓋内出血や脳実質損傷が明確化するケースもあり、頭部外傷後は新たな症状の出現や容体の悪化に気をつけた経過観察を指導するのが望ましい」とも述べています。
「何週間まで」という明確な期限は示されていません。目安の時間を過ぎたあとでも、いつもと違う様子が出てきたら受診してください。
事故はどこで起きているか — 防ぐためのポイント
消費者庁が医療機関ネットワークのデータをまとめた分析では、入院を要した 14 歳以下の事故 1,258 件のうち 転落が 412 件(32.8%)で最多でした。年齢別では 0 歳が 102 件(24.8%) ともっとも多くなっています。
発生場所の内訳は次のとおりです。
| 場所 | 件数(割合) |
|---|---|
| 遊具 | 127 件(30.8%) |
| 家具等 | 97 件(23.5%) |
| 抱っこ・おんぶ等 | 62 件(15.0%) |
| 階段等 | 39 件(9.5%) |
| 窓・ベランダ等 | 30 件(7.3%) |
けがの部位は頭部・顔面・首が 236 件と最多で、うち骨折が 117 件(約 5 割)、頭蓋内損傷が 49 件(約 2 割)でした。
とくに 0 歳では抱っこひもからの転落が多く、受傷部位はほぼ頭です。保護者が立っている場合、赤ちゃんの落下高さは 1m を超えます。
消費者庁が挙げている予防のポイントです。
- ベビーベッドを使い、転落防止用の柵は常に上げる。一時的でも、テーブルなど高さのある所に寝かせない
- ベビーゲートを正しく取り付け、常に閉めてロックする。設置後も定期的に確認する
- 抱っこひもで前にかがむときは、必ず子どもを手で支える。バックルやベルトの緩みを確認する
- 窓には子どもの手の届かない位置に補助錠を付ける。手すり付近に足場になるものを置かない
「揺さぶり」について — ご家族へ
頭の中の出血が見つかったとき、虐待を疑われるのではないかと心配される方がいらっしゃいます。この点について、事実をお伝えしておきます。
日本小児科学会は、転倒や低い所からの転落といった弱い力でも、硬膜下血腫や網膜出血が起こりうるという見解を公式に表明しています。つまり、これらの所見があること自体が、直ちに虐待を意味するものではありません。同学会はまた、医師が医学的に診断することと、事件性などの法的な判断とは別のものであることも明記しています。
そのうえで、赤ちゃんを強く揺さぶること(頭が前後に激しく揺さぶられる状態)は、頭の中の出血につながる危険な行為です。適切に首と体を支えたうえでのあやし方は、これには当たりません。
こども家庭庁は「赤ちゃんが泣きやまなくてイライラすることは誰でもあり得ることです」と書いています。泣きやまなくてつらいとき、赤ちゃんを安全な場所に寝かせて少し離れることは、逃げではなく正しい対処です。当院でも、そうしたご相談を受けています。
当院での診療
当院は自由が丘駅徒歩 1 分。頭を打ったあとの診察では、打ったときの状況(高さ・場所・打った部位)と、そのあとのお子さまの様子をうかがい、「いま心配な所見があるか」「おうちで何を見ていただくか」「どうなったら再受診か」を一緒に整理します。CT が必要かどうかも、上でご説明した基準に沿って判断し、理由をお伝えします。
気になることがあれば、遠慮なくご相談ください。
よくある質問
Q. 打った直後に泣いたのですが、大丈夫でしょうか?
打ってすぐ大きな声で泣けたなら、意識ははっきりしているサインで、まずはひと安心です。そのあと機嫌が戻り、いつもどおり過ごせていれば、ご家庭で様子を見て大丈夫です。ただし、このあと数時間〜1日は、嘔吐や元気のなさが出てこないかを見てあげてください。
Q. たんこぶができました。冷やすだけでよいですか?
打った場所によります。おでこのたんこぶは比較的心配の少ないもので、保冷剤などで20分ほど冷やせば多くは数日で小さくなります。一方、側頭部・頭頂部・後頭部のたんこぶは、より注意が必要です。また、へこんでいる・とても大きく柔らかい・どんどん広がるたんこぶは中で出血している可能性があるため、救急受診してください。
Q. 打ったあと、寝かせてもよいですか?
眠ること自体は問題ありません。「寝かせてはいけない」と無理に起こし続ける必要はありません。ただし、呼びかけやゆさぶりで普通に反応するかをときどき確認してください。学会の提言が家族向けに挙げている受診サインにも「赤ちゃんがミルクの時間になっても起きない」が含まれています。起こしても目を覚まさない・ぼんやりして反応が乏しいときは、夜間でも受診してください。
Q. いつまで様子を見ればよいですか?
最初の数時間がもっとも注意が必要で、日本の学会の提言では家族向けに 1歳以上は24時間、1歳未満は48時間程度がすすめられています。見るポイントは「意識・反応」「嘔吐」「機嫌といつもとの違い」です。なお、CT で異常がなくても後から症状が出ることがあるため、目安の時間を過ぎても、いつもと違えば受診してください。
Q. CT は撮ってもらったほうが安心では?
小児では、必要のない CT はできるだけ避けるのが原則です。CT による放射線被曝と、白血病・脳腫瘍のリスクの関連を示した大規模研究があるためです。上でご説明した基準に当てはまり、経過観察で足りると判断できる場合は、撮らずに見ていくほうがお子さまの利益になります。撮る/撮らないの理由は、診察のときに必ずご説明します。
Q. ソファから落ちただけでも受診が必要ですか?
高さが低くても油断はできません。消費者庁の分析では、0.5m 未満の転落でも頭蓋内損傷が起きた例が報告されています。ただし「落ちた=すべて受診」ではありません。打った直後に泣き、機嫌が戻り、嘔吐がなく、いつもどおり過ごせているなら、おうちで見守って構いません。判断に迷うときは #8000 にご相談ください。
Q. 救急車を呼ぶか迷うときは、どうすればよいですか?
意識がない・けいれん・出血が止まらない・様子がおかしくて動かせないときは、迷わず 119番へ。「受診すべきか」「いま行くべきか」を迷う段階なら、小児救急電話相談 #8000(プッシュ回線・携帯電話から)に電話すると、看護師や医師に相談できます。実施時間は自治体によって異なります。
参考文献
- 日本小児神経学会ほか(日本小児神経外科学会・日本小児救急医学会・日本小児放射線学会協力ワーキンググループ). 小児頭部外傷時のCT撮像基準の提言・指針(2019年11月). https://www.childneuro.jp/uploads/files/about/iryoanzenS_headinjuryCT_201911.pdf(参照: 2026-09-06)
- Kuppermann N, Holmes JF, Dayan PS, et al; PECARN. Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma: a prospective cohort study. Lancet. 2009;374(9696):1160-1170. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(09)61558-0
- Pearce MS, Salotti JA, Little MP, et al. Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of leukaemia and brain tumours: a retrospective cohort study. Lancet. 2012;380(9840):499-505. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(12)60815-0
- 消費者庁. 子どもの転落事故に注意! — 落ちるまではあっという間です(2022年7月20日 News Release). https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_061/assets/consumer_safety_cms205_220720_01.pdf(参照: 2026-09-06)
- こども家庭庁. 転落・転倒事故(子供を事故から守る!プロジェクト ハンドブック). https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety-actions/handbook/content-4(参照: 2026-09-06)
- 公益社団法人日本小児科学会. 虐待による乳幼児頭部外傷(AHT)に対する日本小児科学会の見解(2020年8月22日理事会承認). https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/AHT_kenkai.pdf(参照: 2026-09-06)
- こども家庭庁. 赤ちゃんが泣きやまない 〜泣きへの理解と対処のために〜. https://www.cfa.go.jp/policies/jidougyakutai/nakiyamanai(参照: 2026-09-06)
- 公益社団法人日本小児科学会(監修). こどもの救急(ONLINE-QQ)「頭を強くぶつけた」. https://kodomo-qq.jp/index.php?pname=atamabutsuketa(参照: 2026-09-06)
- Akutsu N, Nonaka M, Narisawa A, et al. Infantile subdural hematoma in Japan: A multicenter, retrospective study by the J-HITs group. PLOS ONE. 2022;17(3):e0264396. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0264396
- 厚生労働省. こども医療電話相談事業(#8000)について. https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/10/tp1010-3.html(参照: 2026-09-06)
この記事の監修
院長 山口いぶき(日本小児科学会 専門医)
最終更新:2026 年 9 月 6 日