ヘルメット治療に後遺症はある? 装着中に起きることと「失敗」と呼ばれるもの
半年近く、赤ちゃんの頭にヘルメットをかぶせる。「あとから何か残らないだろうか」と心配になるのは当然です。この記事では、装着しているあいだに起きることと、やめたあとに残ることを分けて、研究で分かっている範囲をそのままお伝えします。
結論:装着中の皮膚トラブルは起こります。「後遺症」として確立した報告はありません
整理すると、次の3つになります。
- 装着中に多いのは、皮膚の赤み・むれ・においなど。多くは一過性で、調整や休止で対応できます
- その頻度は機種と時代で大きく違います。ある海外の研究では皮膚の刺激が96%、日本の現行機種の研究では発赤が2.2%と、数字が一桁以上違います
- やめたあとに何かが残るという報告は、確立したものがありません。頭の形についても、治療終了から1歳までの後戻りは最小でした
装着中に起きること — 数字が大きく違う理由
海外の研究(2014年・オランダ)
BMJ に発表された研究では、ヘルメット治療を行った赤ちゃんの保護者全員(35人中35人)が、何らかの副作用を報告しました。内訳は次の通りです。
| 報告された内容 | 割合 |
|---|---|
| 皮膚の刺激 | 96%(32/34) |
| ヘルメットのにおい | 76%(25/33) |
| 抱っこがしにくいと感じた | 77%(24/31) |
| 発汗が増えた | 71%(24/34) |
| ヘルメットに関連した痛み | 33%(9/27) |
| ヘルメットを嫌がる(受け入れの問題) | 24%(8/33) |
この数字を見ると不安になりますが、すべて装着しているあいだのことで、ヘルメット治療をやめたあとに残るものとして報告されているわけではありません。
日本の現行機種の研究(2024年)
一方、日本で使われているベビーバンドの多施設共同研究(224人)で発赤がみられたのは5人(2.2%)でした。いずれも治療の一時中断・外用薬・クッションの追加で改善しており、頭囲の発育が妨げられた例はありませんでした。
日本の公的医療機関の研究(2021年)
もう1つ、日本の公的医療機関がヘルメット治療を完了した159人を報告した研究があります。ここでは 保護者のほぼ全員が「汗が増えた」「軽い皮膚の刺激」「発疹」のいずれかを報告 しています。一方で、水ぶくれまで進んだのは1人(慣らし期間が短かったケースで、5日間休んでから再開しています)、皮膚のただれ(潰瘍)は0人でした。
なぜ96%と2.2%が並ぶのか
同じ「ヘルメット治療」でも、次の点が違います。
- 機種と素材:10年前の海外のヘルメットと、現在日本で使われている機種は別物です
- 記録の取り方:オランダの研究は保護者が気づいたことをすべて報告する形で、ごく軽い赤みも拾われます。日本の研究は医療機関が診療のなかで記録したものです
- 通気やフィッティングの調整:装着中の調整をどれだけ細かく行うかで、皮膚トラブルの起こりやすさは変わります
どの数字も嘘ではありません。3つを並べると、実際のところが見えてきます。軽い汗疹やムレは、ほとんどのお子さまに起きると考えておいたほうが実態に合います。 そのうえで、受診や処置が必要になる程度の赤みは数%、それ以上に進むのはまれ、という段構えです。
「まったく起きない」でも「必ずひどいことになる」でもなく、起こりうるが、多くは調整で対応できる範囲、というのが実際のところです。当院でヘルメット治療を行う場合は、装着開始後の受診間隔を短めに取り、皮膚の状態を見ながら進めます。
「後遺症」と呼べるものはあるのか
現時点で、ヘルメット治療によって長期的な障害が残るという確立した報告はありません。発育についても、日本の研究で頭囲の伸びが妨げられた例はありませんでした。
学齢期までの追跡なら、データがあります。 幼少期に頭の形の変化があると診断された6〜12歳の138人(うち108人がヘルメット治療を受けた)を対象に、学力・IQ・目と手の協調を調べた研究では、ヘルメット治療を受けた子と受けなかった子で、どの指標にも差がありませんでした。どちらのグループも結果は標準の範囲内でした。「ヘルメットをかぶせたこと自体が、あとの発達に響くのではないか」というご心配については、この範囲では否定的です。
ただし、これは「絶対に何も起きない」という意味ではありません。次の点は正直にお伝えします。
- 極端にきつい装着は避けるべきものとして、機器の添付文書でも注意されています。だからこそ、定期的な調整と受診が必要です
- 成人まで、数十年単位の追跡データはありません。上に挙げたとおり学齢期(6〜12歳)までの報告はありますが、ヘルメット治療が広く行われるようになってからの年数が、それほど長くないためです
- 装着中に赤ちゃんが強く嫌がる場合、無理に続けることは目的に合いません。中止や再検討も選択肢です
「失敗」と呼ばれるものの正体
「ヘルメット治療 失敗」で検索される内容は、多くの場合、次のどちらかを指しています。
① 思ったほど形が変わらなかった
これは開始月齢と重症度で説明できる部分が大きく、生後7か月より前に始めたグループのほうが改善が大きい(CVAI の変化 −6.3 対 −4.4)というデータがあります。また、ヘルメット治療をしても完全な左右対称になる方が多数派ではありません。オランダの研究では、ヘルメット群でも自然経過群でも、完全に回復したのは4人に1人程度でした。「どこまでを目指すか」を始める前に医師と言葉にしておくことが、この失敗感をいちばん減らします。
② やめたあとに戻ってしまった(後戻り)
こちらは、追跡したデータがあります。日本で治療を終えた32人を1歳まで追った研究では、治療終了から12か月までの CVAI の変化は 0.3 ± 0.8%。重症度でみると、変わらなかった方が88%、改善3%、悪化9% で、著者は「治療終了から1歳までの自然経過での悪化はごくわずかだった」と結論しています。
つまり、やめた途端に元に戻る、ということは起きにくいと考えてよい範囲です。
装着を始める前に確認しておきたいこと
- 1日の装着時間と、期間の見込み
- 皮膚のトラブルが出たときの連絡先と対処(休止の判断は誰がするか)
- 調整のための受診の頻度
- 費用の総額(→頭の形外来に明記しています)
- どこまでの改善を目指すのか(→後悔の3つの理由)
ヘルメット治療は、かぶせて終わりではなく、調整しながら進めていくものです。始めたあとに困ったことが出てきたときに、すぐ相談できる状態にしておくことが、いちばんの安全策になります。
まとめ
- 装着中は皮膚の赤み・むれ・においなどが起こりえます。軽い汗疹やムレはほとんどのお子さまに起きると考えておくほうが実態に合い、受診や処置が必要な程度の赤みは数%(日本の現行機種の研究で2.2%)です
- 「後遺症」として確立した報告はありません。頭囲の発育が妨げられた例もなく、6〜12歳での学力・IQ・目と手の協調も、ヘルメット治療の有無で差がありませんでした
- 「失敗」の多くは、開始の遅れと期待した仕上がりとのずれを指しています
- やめたあとの後戻りは最小でした(治療終了〜1歳で重症度は88%が不変)
気になることは、どんなに小さなことでも遠慮なくお尋ねください。「こんなことを聞いてもいいのかな」と思われる内容ほど、あとになって迷いの種になります。頭の形外来では、ヘルメット治療をするかどうかを決める前の段階から、保険診療でご相談を承っています。まだ迷っている、決めきれていない——まずはご相談だけでも構いません。
参考文献
- van Wijk RM, et al. Helmet therapy in infants with positional skull deformation: randomised controlled trial. BMJ. 2014;348:g2741. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4006966/
- Therapeutic Effectiveness of a Novel Cranial Remolding Helmet (baby band2) for Positional Plagiocephaly: A Multicenter Clinical Observational Study. J Clin Med. 2024;13:5952. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11477759/
- Natural Progression of Cranial Shape Following Helmet Therapy for Deformational Plagiocephaly. J Clin Med. 2025;14:357. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11765566/
- Neurocognitive Outcomes in Deformational Plagiocephaly: Is There a Role for Orthotic Helmet Therapy? Plast Reconstr Surg. 2023;152(3):488e-498e. https://journals.lww.com/plasreconsurg/abstract/2023/09000/neurocognitive_outcomes_in_deformational.33.aspx
- Kaneko T, et al. Evaluation of the Molding Helmet Therapy for Japanese Infants with Deformational Plagiocephaly. JMA J. 2021;4(1):50-60. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7872780/
この記事の監修
院長 山口いぶき(日本小児科学会 専門医)
大原啓一郎(日本脳神経外科学会 専門医・日本脳神経血管内治療学会 専門医)
古田泰之(日本脳神経外科学会 専門医・日本脳神経血管内治療学会 専門医)
最終更新:2026 年 8 月 25 日