小児鼠径ヘルニア(脱腸)
お子さまの足の付け根が、泣いたときや力んだときに「ぷっくり」と膨らんで見える状態を、医療の現場では 鼠径(そけい)ヘルニア、いわゆる「脱腸」と呼びます。多くのお子さまが経験する、よく知られたご病気のひとつで、診断と治療の進め方も整っています。気づいたタイミングで落ち着いて受診いただければ、安心して次のステップに進めるご病気です。
💡 この記事の要点
- 足の付け根が膨らむよくある病気で、痛がらず機嫌もよいことがほとんどです
- 膨らみが戻らないときはご家庭で無理に押し戻さず、医療機関にご相談ください
- 押しても戻らない・激しく痛がる・嘔吐があるときは夜間休日でも受診を(#8000)
どんな病気か
赤ちゃんはお腹の中にいる間、お腹を覆う薄い膜(腹膜)の一部が、足の付け根に向かって細い通り道のように伸びています。本来は生まれる前後に自然に閉じる通り道ですが、これが閉じきらずに残ってしまうと、お腹の中の腸などが、その通り道を伝って足の付け根のところに飛び出してきます。これが「脱腸(鼠径ヘルニア)」と呼ばれる状態です。
子どものお腹の手術で扱われる頻度の高いご病気のひとつとされ、報告により幅はありますが、概ね小児の 1〜5% 程度 にみられるとされています。男の子に多く(男女比およそ 4〜6 : 1)、右側にできることが多い傾向があります。早産や低出生体重で生まれたお子さまでは、頻度がやや高くなることが知られています。
乳幼児期にこの通り道が自然に閉じることは少なく、診断がついた段階で手術による治療を検討するのが一般的です。
主な症状と気づきのポイント
「足の付け根のふくらみは、今すぐ病院に行くべき?それとも様子を見ていい?」というのは、多くの保護者の方が最初に思う疑問です。基本的な見え方は次の通りです。
- 泣いたり、いきんだり、立ったりすると、足の付け根(または陰嚢)がぷっくり膨らむ
- 横になって安静にしていると、膨らみがすっと お腹の中に戻る
- 通常は 痛がらず、機嫌もよい ことがほとんど
- 片側だけに出ることが多く、ときに両側のこともある
ふだんは膨らみが出ていてもお子さまはケロッとしていることが多く、これはこの病気の典型的な様子です。一方で、ふくらみが 戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」 という状態は注意が必要です。嵌頓とは、飛び出した腸が通り道に挟まって戻らなくなった状態のことを指します。次のようなサインがある場合は、お腹の中の腸の血流が悪くなっている可能性があるため、夜間や休日であってもすぐに医療機関にご相談ください。
- 膨らみが 押しても戻らない
- 激しく 痛がって泣き続ける、ぐったりしている
- 嘔吐がある、ミルクや食事を受けつけない
- 膨らみの皮膚が 赤くなる、紫色っぽく変化する
- 膨らみが 硬く触れる
女の子の場合は、腸ではなく卵巣がこの通り道に出てきていることがあり、丁寧な評価が必要なため、男の子と同様、気づいた段階で早めにご相談いただくのが安心です。
紛らわしい病気(鑑別)
足の付け根や陰嚢が膨らむ・腫れているように見える病気は、脱腸以外にもいくつかあります。診察と必要に応じた検査で見分けます。
- 陰嚢水腫・精索水腫:膨らみの中身が「腸」ではなく「水」でできているもの。痛みはなく、光を当てると透けて見えることがあります。脱腸とは別の病気で、対応の仕方も異なります。
- 停留精巣:男の子で、本来あるはずの場所に精巣が触れず、足の付け根のあたりに触れる状態。脱腸とは別の病気ですが、見た目で混同されることがあります。
- そけい部のリンパ節の腫れ:感染症などに伴って、足の付け根のリンパ節がコリッと触れることがあります。ふくらみ方や押したときの硬さが脱腸と異なります。
- そけい部の腫瘍(まれ):頻度はまれですが、ふくらみが長く続く・性状が典型的でない場合は、鑑別のために追加の検査をご案内することがあります。
ご家庭で見分けるのは難しい部分なので、「気になるふくらみがある」段階でご相談いただいて構いません。
当院での診断と治療
当院(キッズクリニックまるまる)では、まずは小児科として 診察による評価と必要な検査の判断、その後の 小児外科専門施設へのご紹介・術後フォロー を担います。
診察での診断
- 視診・触診を行い、泣かせて・いきませて膨らみが出るかを確認します
- 必要に応じて当院で足の付け根の超音波(エコー)検査を行い、中身が腸か水か(脱腸か陰嚢水腫か)を確認します
- 嵌頓が疑われる状態であれば、お待たせせず緊急対応を優先します
治療方針
乳幼児期にこの通り道が自然に閉じることは少ないため、診断がついた場合の標準的な治療は 手術による根治術 です。嵌頓を避けるため、診断後はあまり長く待たず、安全に組める日程で手術を計画するのが現在の一般的な考え方です。
| 手術の種類 | 概要 |
|---|---|
| 鼠径部小切開(開腹)ヘルニア根治術 | 足の付け根に小さな切開を加えて通り道を閉じる、長く行われている標準的な術式 |
| 腹腔鏡下手術(LPEC など) | お腹に数か所小さな穴をあけてカメラで行う方法。両側性、再発例などで適応となるほか、施設によっては第一選択として広く行われています |
いずれも全身麻酔で行われ、施設にもよりますが 手術時間はおよそ 30 分程度、日帰りまたは短期入院で行われることが多い手術です。手術成績は良好で、再発するお子さまは おおよそ 100 人中 1〜2 人程度 とされています。
なお、嵌頓を起こしたヘルニアに対しては、医療機関で医師が 用手整復(手で押し戻す処置)を試み、戻らない・腸の血流低下が疑われる場合には緊急手術が選択されます。ご自宅で無理に押し戻そうとしないでください。
当院での対応の流れ
- 視診・触診による診断
- 必要に応じた超音波検査の判断
- 嵌頓が疑われる場合は 小児外科への緊急ご紹介・救急搬送
- 待機可能な場合は、近隣の小児外科専門施設へ 手術のご紹介
- 術後の経過観察・かかりつけとしての継続診療
家庭でできるケア
脱腸は、診断・治療の方針さえはっきりすれば、ご家庭での過ごし方そのものは、ふだんと大きく変わりません。気にかけていただきたいポイントだけ整理しておきます。
ふだんの観察
- 膨らみが ずっと出たまま になっている、明らかに 大きくなってきた ときは受診の対象です
- 泣いた時だけ膨らみが目立つのは、よくみられる自然な反応です。慌てなくて大丈夫です
- お風呂・着替えのタイミングは、左右差や膨らみを観察しやすいタイミングです
🚑 ふくらみが戻らないときは迷わず救急受診を(自宅では押さない)
ふくらみが押しても戻らないとき、強く痛がるとき、嘔吐があるとき、皮膚の色が変わってきたときは、ご家庭で押し戻そうとせず、医療機関にご相談ください。診療時間外であれば小児救急電話相談(#8000)や、地域の小児救急対応の医療機関の利用も選択肢になります。
手術の前後
- 手術を待つ間も、ふだんどおりの生活で構いません。気になる変化が出たときに連絡できる窓口を、あらかじめ確認しておくと安心です
- 手術後は、医師の指示に従って創部(傷口)をやさしく管理し、おおむね 1〜2 週間 は激しい運動を控えるのが一般的です。保育園・スポーツ・お風呂の具体的な再開時期は、手術を受けた施設の医師の指示が優先されます
よくあるご質問
Q. 膨らみは出ているけれど、痛がっていないし機嫌もよいです。すぐ受診すべきですか?
A. 通常はこの病気は痛みなく、機嫌よく過ごせることがほとんどです。一方で、自然に閉じることは少ないご病気のため、診断と治療方針を決める意味で、一度受診をご検討ください。
Q. 泣いた時だけ膨らみが出ます。これは脱腸ですか?
A. 泣いた・力んだときに足の付け根がぷっくり膨らむのは、脱腸でよくみられる所見です。ただし、診断は実際に診察してみないと確定できません。気になるタイミングのお写真を撮っておくと、受診時の診断の助けになります。
Q. 夜中や休日に、膨らみが戻らなくなったらどうすればいいですか?
A. 押しても戻らない・強く痛がる・嘔吐する・皮膚の色が変わるなどがあれば、嵌頓の可能性があるため、ご家庭で押し戻そうとせず、夜間休日でも医療機関にご相談ください。診療時間外は小児救急電話相談(#8000)や救急対応の医療機関を活用いただけます。
Q. 手術は怖いです。本当に避けられないのですか?
A. 乳幼児期にこの通り道が自然に閉じることは少なく、嵌頓を予防する意味でも、手術が標準的な治療として確立されています。一方で、手術成績はよく、多くのお子さまが日帰り〜短期入院で対応できるご病気です。当院では、ご家族のご不安に伴走しながら手術施設をご紹介します。
Q. 当院で手術は受けられますか?
A. 当院では、診断と必要な小児外科専門施設へのご紹介、術後のかかりつけとしての継続診療を担当します。具体的な紹介先や受診のタイミングについては、診察の際にご相談ください。
Q. うちは女の子です。男の子に多いと聞きますが、女の子の脱腸は違いますか?
A. 女の子にも起こるご病気です。女の子の場合は、腸ではなく卵巣がこの通り道に出てくることがあり、丁寧な評価が必要になります。気になる膨らみがあれば、男の子の場合と同じように、早めにご相談ください。
症状についてのご相談
「この症状で受診すべき?」という判断は、お子さまの状態を直接お伺いした上で個別にご案内します。気になる症状があれば、受診をご検討ください。
自由が丘キッズクリニックまるまるは、自由が丘駅から徒歩1分の小児科です。小児鼠径ヘルニア(脱腸)をはじめ、お子さまの気になる症状は、Web または LINE からご予約ください。
参考文献
- 日本小児外科学会. 鼠径ヘルニア. http://www.jsps.or.jp/archives/sick_type/sokei-helnia (accessed: 2026-06-02)
- 湘南藤沢徳洲会病院 小児外科. 小児鼠径ヘルニアに対する手術療法. https://fujisawatokushukai.jp/department/pediatric_surgery/pediatric_inguinal_hernia/ (accessed: 2026-06-02)
- 医療情報科学研究所 編. 病気がみえる vol.15 小児科 第1版. メディックメディア; 2022.(消化器「鼠径部ヘルニア(外鼠径ヘルニア)」印刷 p.212-214)
この記事の監修
院長 山口いぶき(日本小児科学会 専門医)
最終更新:2026 年 7 月 9 日
このページは一般的な医学情報をご紹介するもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さまの症状については、受診のうえでご相談ください。