ノロウイルス感染性胃腸炎
突然はじまる嘔吐や下痢に、ご家族は驚かれることが多い病気です。ノロウイルスは「お腹のかぜ」のひとつで、多くのお子さまは数日のうちに自然と回復していきます。一番の心配は脱水で、おうちでの水分のあげ方とご家族へうつさない工夫がポイントになります。このページでは、ご家族が落ち着いて対応できるように、基本的な知識とおうちでのケアを整理しました。
💡 この記事の要点
- 突然の嘔吐・下痢を起こすウイルス感染症で、多くのお子さまは 1〜3 日で楽になり、長くても 1 週間以内に回復します。
- 嘔吐直後は 30 分休ませてからティースプーン 1 杯の経口補水液を 5〜10 分おきに再開し、脱水を防ぎましょう。
- おしっこの量が明らかに減る・泣いても涙が出ない・ぐったりしているなど脱水のサインがあれば速やかに受診を。
どんな病気か
ノロウイルスは、嘔吐・下痢・腹痛をおこすウイルスです。「ノロ」「嘔吐下痢症」と呼ばれることもあります。冬(11 月〜3 月ごろ)に流行のピークがありますが、1 年を通じてみられます。
- ごく少しのウイルスでもうつるため、ご家族のあいだで広がりやすい病気です。
- 保育園・幼稚園・学校・施設など、人が集まる場所での集団感染や、二枚貝(牡蠣など)を介した食中毒としても発生します。牡蠣などの二枚貝はウイルスを内部にため込む性質があるため、加熱せずに食べると感染源になりやすく、小さなお子さまには十分に火を通したものを与えると安心です。
- 潜伏期間は 24〜48 時間ほどで、突然の嘔吐ではじまることが多いのが特徴です。
ノロウイルスは細かい型(GⅠ・GⅡ など)が複数あるため、一度かかってもまた別の型にかかることがあります。
主な症状と気づきのポイント
ご家族から最も多くいただくご質問が「これはノロでしょうか?」というものです。典型的な経過は次のとおりです。
- 突然の嘔吐(最初の症状になることが多い)
- 水のような下痢(まれに血のまじった下痢)
- お腹の痛み、気持ち悪さ
- 38℃前後の軽い熱(出ないこともあります)
- だるさ、元気のなさ
多くのお子さまは 1〜3 日で楽になり、長くても 1 週間以内に回復します。多くの場合、最初に嘔吐があり、下痢が始まるころには嘔吐は落ち着いてくることが多いので、経過の目安にしてください。一方で、乳幼児では水分が失われやすく、脱水が一番の心配ごとになります。嘔吐や下痢が何度も続いてひどい脱水になると、体の水分やミネラルのバランスが崩れることもあります。乳児では、嘔吐物がのどに詰まらないか注意する必要もあります。
おうちで見ていただきたい脱水のサイン
「水分が足りているか」を判断する目安として、ご家族が確認しやすいポイントです。
- おしっこの量がいつもより少ない、色が濃い
- 泣いても涙が出にくい
- くちびる・口の中が乾いている
- 元気がなく、ぐったりしている
- 赤ちゃんでは、頭のてっぺん(大泉門)がへこんで見える
- 手の爪を押したあと、ピンク色に戻るのが遅い
これらが気になるときは、迷わずご相談ください。判断に迷う段階で構いません。
紛らわしい病気(鑑別)
嘔吐や下痢を起こす病気はノロウイルス以外にもあります。最終的な区別は診察で行いますが、ご参考までに代表的なものを挙げます。
- ロタウイルス感染症 — 冬から春にかけて、特に乳幼児で重い症状になりやすい。
- アデノウイルス感染症 — 通年みられ、発熱や結膜炎を伴うこともある。
- 細菌性の腸炎(カンピロバクター・サルモネラ・病原性大腸菌など) — 食事との関連や血便を伴うことがある。
- 急性虫垂炎(盲腸) — お腹の痛みが前面に出る場合に区別が必要。
- 周期性嘔吐症候群 — 繰り返す嘔吐発作で、感染症ではない。
「ノロかどうか」よりも、「今のお子さまの状態に何が必要か」を診察でご一緒に確認します。
当院での診断と治療
診断
季節・流行状況・典型的な症状をふまえた臨床診断が基本です。ノロウイルスの抗原検査は保険適用が限られており(3 歳未満・65 歳以上・悪性腫瘍患者・臓器移植患者など)、通常の診療では全例に行うものではありません。
治療
ノロウイルスに直接効くお薬はなく、症状をやわらげながら回復を待つのが基本方針です(抗生剤は効きません)。
- 経口補水療法を第一に行います — 経口補水液(OS-1 など、塩分・糖分・水分のバランスがとれた水分)を少量ずつこまめに口から摂ります。
- 嘔吐が強いときは、嘔吐の直後 30 分〜1 時間ほど飲食を控えてから、ティースプーン 1 杯(約 5 mL)程度を 5〜10 分おきに少しずつ再開します。
- 飲み込めない・繰り返し吐いてしまう・脱水が進んでいる場合は、点滴での水分補給を検討します。
- 当院では、ご自宅で対応できる範囲を一緒に確認し、脱水がすすんで点滴が必要な場合は院内で輸液を行います。入院が必要な場合には連携先の病院をご紹介します。
- 吐き気止め(制吐薬)は、ウイルス性胃腸炎ではルーチンでの使用は推奨されておらず、当院では原則として使用しません(必要と考えられるときは個別に判断します)。
- 集団感染が疑われる場合は、医療機関から保健所へ連絡する仕組みになっています。
家庭でできるケア
水分のあげ方(脱水の予防)
おうちでのケアでもっとも大切なポイントです。
- 経口補水液(OS-1 など)を少量ずつ、何回にも分けて飲ませます。
- 嘔吐の直後は 30 分〜1 時間ほど飲食を控え、その後ティースプーン 1 杯(約 5 mL)から 5〜10 分おきに再開します。
- スプーンで飲めるようになったら、少しずつ量を増やしていきます。
- 麦茶や水だけでは塩分・糖分が足りません。スポーツドリンクは糖分が多めなので、下痢が強いときは経口補水液(OS-1 など)の方が向いています。
- 経口補水ゼリーやアイスタイプも、嫌がるお子さまには選択肢になります。
食事の戻し方
- 嘔吐が落ち着いたら、消化のよいもの(おかゆ・うどん・パン・スープ・りんごのすりおろし・バナナなど)から少量ずつ。
- 牛乳・乳製品でしばらくお腹がゴロゴロすることがあるため(一過性の乳糖の消化不良)、数日は控えめにすると安心です。
- 食欲が戻ってきたら、無理に消化食を続ける必要はありません。お子さまの食べたいものに少しずつ戻していきます。
ご家族にうつさないために
ノロウイルスは少しのウイルス量でうつるため、ご家庭での対策が大切です。
- 手洗いは石鹸と流水で 30 秒以上。アルコール消毒は効きにくいので、手洗いが基本です。
- タオル・食器・コップは分けて使う。
- お風呂は、症状のあるお子さまを最後にする、または症状中はシャワーのみにする。
- 看病する人をなるべく決めて、妊娠中のご家族・高齢のご家族との接触は分けるように工夫します。
- 症状がおさまったあとも、便には 2〜3 週間(お子さまでは最長 1 ヶ月ほど)ウイルスが出ることがあるため、トイレ後・おむつ替え後の手洗いは続けてください。
嘔吐物・おむつの処理手順
- マスクと手袋をつけ、窓を開けて換気します。
- ペーパータオル(または新聞紙)で外側から内側に向かって静かに拭き取ります。
- 拭き取ったものはビニール袋に入れ、塩素系漂白剤(ハイターなど)を薄めた消毒液をしみこませてから袋を二重にして密閉して廃棄します。
- 嘔吐物のあった床や周囲も、消毒液を広めに浸したペーパーで 10 分ほど覆ってから水拭きします。
- 乾いてしまうとウイルスが空気中に細かい粒となって舞いやすくなるため、できるだけ早く処理します。
消毒液の作り方(次亜塩素酸ナトリウム 0.1% / 1000ppm)
家庭用の塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム約 6%)を使う場合、500 mL のペットボトルの水にキャップ約 2 杯(約 10 mL)を加えると、嘔吐物・便の処理に使える濃度になります。色物・金属には使えません。使うたびに作り、子どもの手の届かない場所で保管してください。
保育園・幼稚園・学校への登園・登校
学校保健安全法では、ノロウイルスは「その他の感染症(第三種)」として扱われ、明確な出席停止日数は定められていません。下痢・嘔吐が軽くなり、普通の食事が摂れるようになるまでが目安です。園や学校ごとに登園許可証や治癒証明書の取り扱いが異なるため、各園の方針を確認してください。当院では必要に応じて書類の作成に対応します。
よくあるご質問
Q. 飲ませてもすぐ吐いてしまいます。どうすればいいですか?
嘔吐の直後は無理に飲ませず、もう一度 30 分ほど休ませてから、ティースプーン 1 杯(約 5 mL)を 5〜10 分おきに再開します。それでも吐き続ける・元気がなくなる・おしっこが出ないなど気になるサインがあれば、判断に迷う段階で 受診をご検討ください。
Q. 経口補水液を嫌がります。麦茶やスポーツドリンクで代わりになりますか?
麦茶や水だけでは塩分・糖分が足りず、スポーツドリンクは糖分が多めで下痢を悪化させることがあります。経口補水ゼリー、薄めたりんごジュース、味付きの経口補水液など、お子さまが受け付けやすいものを試してみてください。
Q. ご家族にうつさないために、家の中で気をつけることはありますか?
食器・タオルを分ける、お風呂は最後に入れる(またはシャワーのみ)、トイレ・おむつ替え後の手洗いを家族全員で徹底することが基本です。寝る部屋を分けられればより安心です。妊娠中の方・高齢のご家族とはなるべく接触を分けてください。
Q. 嘔吐物の処理に、塩素系漂白剤はどう薄めればいいですか?
ハイター(次亜塩素酸ナトリウム約 6%)の場合、500 mL の水にキャップ約 2 杯(約 10 mL)で 0.1%(1000 ppm)の消毒液になります。マスク・手袋・換気をしたうえで、ペーパータオルで外側から内側に拭き取り、二重のビニール袋に密閉して廃棄してください。
Q. アルコール消毒はノロには効かないと聞きました。本当ですか?
ノロウイルスはアルコールが効きにくい性質を持ちます。基本は石鹸と流水での手洗いと、塩素系漂白剤での消毒です。
Q. 予防接種はありますか?一度かかれば免疫はつきますか?
ノロウイルスのワクチンは、2026 年現在、国内では承認されていません。免疫も短い期間で弱くなり、また別の型にもかかるため、何度も罹患することがあります。
症状についてのご相談
「この症状で受診すべき?」という判断は、お子さまの状態を直接お伺いした上で個別にご案内します。気になる症状があれば、受診をご検討ください。
自由が丘キッズクリニックまるまるは、自由が丘駅から徒歩1分の小児科です。ノロウイルス感染性胃腸炎をはじめ、お子さまの気になる症状は、Web または LINE からご予約ください。
参考文献
- 内山聖 編. 標準小児科学 第8版. 医学書院; 2013. 第15章 感染症「ウイルス性胃腸炎(ノロウイルス)」、第18章 消化器疾患「ウイルス性胃腸炎」
- 厚生労働省. ノロウイルスに関する Q&A. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html(参照 2026-06-02)
- 厚生労働省. 感染性胃腸炎(特にノロウイルス). https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/norovirus.html(参照 2026-06-02)
- 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. 学校、幼稚園、認定こども園、保育所において予防すべき感染症の解説 2025 年 4 月改訂版. https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20250430_yobo_kansensho.pdf(参照 2026-06-02)
- 医療情報科学研究所 編. 病気がみえる vol.15 小児科 第1版. メディックメディア; 2022.(感染症「ノロウイルス感染症」印刷 p.524)
この記事の監修
院長 山口いぶき(日本小児科学会 専門医)
最終更新:2026 年 9 月 11 日
このページは一般的な医学情報をご紹介するもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さまの症状については、受診のうえでご相談ください。