小児甲状腺機能異常
お子さまの「疲れやすい」「首が腫れている気がする」「思春期に入って体重や情緒の変化が気になる」——そうした 保護者の方の小さな気がかり から、甲状腺の働きの異常が見つかることがあります。橋本病やバセドウ病は、思春期の女の子に比較的多い病気ですが、血液検査で確認でき、適切に治療を続けながら学校生活も普段どおり送れるお子さまがほとんどです。本ページでは、子供の甲状腺機能異常の基本と当院での対応の流れを、保護者の方向けにまとめています。
💡 この記事の要点
- 甲状腺ホルモンの多すぎ・少なすぎで起こる病気で、血液検査で確認できます
- 決まった時間の内服継続と、飲み忘れ時は自己判断で倍量にしないことが大切です
- 急な体重変化や発熱と咽頭痛の同時出現は定期受診を待たずご相談ください
こんな症状があれば甲状腺の検査を検討します
「思春期のせい」「性格のせい」と思っていた変化が、実は甲状腺ホルモンのバランスの問題だった、というケースがあります。下記の症状が 複数組み合わさって続いている 場合は、一度血液検査で確認しておくと安心です。
- 疲れやすい・朝起きられない・寒がりや暑がりが急に変わった
- 首の下(のどぼとけの下)が、左右ともなんとなく膨らんで見える
- 体重が急に増えた/減った(食欲は変わっていないのに)
- 動悸がする・手が細かく震える・落ち着きがなくなった
- 学校での集中力が落ちた・成績の変動が大きくなった
- 身長の伸びがここ 1 年ほど止まっている
- 思春期の女の子で、月経の量や周期が大きく変わった
「うちの子の症状が当てはまるかも」と感じた場合は、遠慮なくご相談ください。
どんな病気か
甲状腺は、のどぼとけの下にある小さな臓器で、体の代謝(エネルギーの使われ方)を調整するホルモンを出しています。「小児甲状腺機能異常」とは、この甲状腺ホルモンが 多すぎる状態(亢進症) または 少なすぎる状態(低下症) になり、全身に影響が出る病気の総称です。
子供で経験する代表的な病型は次のとおりです。
| 病型 | 体の中で起きていること | 代表的な病気 |
|---|---|---|
| 甲状腺機能低下症 | 甲状腺ホルモンが少なく、代謝が落ちる | 橋本病(慢性甲状腺炎)、先天性甲状腺機能低下症 |
| 甲状腺機能亢進症 | 甲状腺ホルモンが多すぎ、代謝が上がる | バセドウ病(Graves 病)、亜急性甲状腺炎 |
橋本病とバセドウ病の違い(保護者向け早見表)
橋本病とバセドウ病は、どちらも自分の免疫が間違って自分の甲状腺を攻撃してしまう「自己免疫性」の病気です。代表的な違いをまとめると、次のようになります。
| 比較項目 | 橋本病(慢性甲状腺炎) | バセドウ病(Graves 病) |
|---|---|---|
| 甲状腺ホルモン | 不足する方向 | 増えすぎる方向 |
| 症状の見え方 | 疲れやすい・寒がり・体重増加・成長の伸び悩み | 動悸・暑がり・体重減少・イライラ・手の震え |
| 好発年齢 | 思春期女児に多い | 思春期女児に多い(男女比 1:5)、国内年間 約 100-200 人 |
| 治療 | レボチロキシン(チラーヂン S)の補充(多くで継続が必要) | 抗甲状腺薬(MMI)を中心に最低 1.5-2 年継続 |
| 治療終了 | 多くは継続。量の調整は成長に合わせて行う | 寛解率は約 30%。維持量で機能正常が続けば中止を考慮 |
思春期の女の子に多い理由と学校生活での配慮
橋本病・バセドウ病は思春期の女の子に多いため、ちょうど学業・部活動・進路選択といったライフイベントと重なります。治療がうまく入れば学校生活は基本的に通常どおり送れますが、症状が強い時期だけ部活動の量や宿泊行事の体調管理について学校と相談する場面が出てくることもあります。診断書の作成や、学校との連携文書もご相談に応じます。
クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)と新生児マススクリーニング
「クレチン症」は、現在は 先天性甲状腺機能低下症 と呼ばれる病気の旧称です。生まれつき甲状腺の働きが弱い状態で、出生直後は症状がほとんど出ないため、日本では 新生児マススクリーニング(生まれてすぐの採血検査)で見つける仕組みがあります。
小児科の教科書では、先天性甲状腺機能低下症は 異所性甲状腺・甲状腺無形成・甲状腺低形成・甲状腺ホルモン合成障害の 4 つ に大きく分類され、ほとんどは家族歴のない孤発例とされています。これに加え、脳側からの指令の異常による「中枢性」のタイプや、お母さんのヨード過剰(子宮卵管造影など)・抗甲状腺薬・自己抗体の経胎盤移行による 一過性の影響 で一時的に低下することもあり、妊娠中の経過の聞き取りも大切です。
新生児マススクリーニングで「再検査」と言われると保護者の方は強く不安を感じますが、ここで早く見つかり、生後 1 ヶ月以内にレボチロキシンの補充を開始することで、神経発達は正常に育っていくお子さまがほとんどです。
主な症状と気づきのポイント
「うちの子のこの様子は思春期のせい? それとも病気?」——保護者の方が最初に悩むのはここだと思います。甲状腺の病気か思春期の生理的変化かは、ご家庭で見分けることは難しく、最終的には血液検査でほぼ確実に区別できます。「気になる症状の組み合わせ」が続くなら、一度検査で安心材料を持っておくのがおすすめです。
甲状腺ホルモンが少ないとき(橋本病など)に多い様子
- 疲れやすい・朝起きにくい・寒がりになった
- 便秘がち、皮膚が乾燥する、髪が抜けやすい
- 食欲は変わらないのに体重が増えてきた
- 身長の伸びが止まってきた
- 集中力が落ちる、ぼんやりすることが増えた
- 思春期の女の子で、月経の量が増える・周期が乱れる
- のどの下が全体的に(左右まんべんなく)膨らんで、触ると少し硬い
甲状腺ホルモンが多すぎるとき(バセドウ病など)に多い様子
- 動悸がする・脈が速い・暑がりになって汗が増えた
- 食欲はあるのに体重が減ってきた
- 手が細かく震える、落ち着きがない、寝つきが悪い
- イライラ・情緒不安定が続く
- お通じが緩い・回数が増える
- のどの下が全体的に膨らみ、触ると少しやわらかい
- 目が大きく見える・少し前に出てきた印象がある(バセドウ病。ただし目の症状は、子どもでは大人より出にくいとされます)
先天性甲状腺機能低下症(乳児期)の様子
- 生まれてすぐは症状がほとんど出ません(お母さんからのホルモンが届いているためで、新生児マススクリーニングで発見します)
- 新生児期を過ぎると、黄疸が長引く・便秘がち・母乳やミルクの飲みが弱い・よく眠る・声がかすれる・舌が大きい・おへそが出っぱる(臍ヘルニア) といった様子で気づかれることもあります
重症化のサイン(きちんと治療していればまず起こりません)
未治療や薬を勝手に中断した場合に、稀に重症化することがあります。代表的なものに、バセドウ病で甲状腺ホルモンが極端に増える状態(甲状腺クリーゼ:高熱・強い動悸・意識がはっきりしない)、低下症が極端に進んだ状態(粘液水腫昏睡:強い意識障害)があります。いずれもごく稀で、定期受診と内服を続けていただいていれば心配の少ない状態です。
紛らわしい病気(鑑別)
甲状腺の病気と似た症状が出る、または検査値が似ることがある病気として、次のようなものがあります。最終的な区別は、血液検査・抗体検査・甲状腺エコーを組み合わせて行います。
- 一過性の甲状腺機能異常:かぜや感染のあとに一時的にホルモン値が動くタイプ。亜急性甲状腺炎などが含まれます。
- 単純性甲状腺腫:ホルモンの値は正常で、甲状腺の大きさだけが大きくなっている状態。思春期に起きることがあります。
- 二次性(中枢性)の甲状腺機能異常:甲状腺そのものではなく、脳の中(視床下部・下垂体)から出る指令の側に原因があるタイプ。
- 薬剤の影響によるもの:一部の薬(リチウムやアミオダロンなど)で、甲状腺ホルモンの値が変動することがあります。
当院での診断と治療
当院では、保護者の方が「もしかして」と感じた段階で 入り口として相談していただける場所 でありたいと考えています。必要な検査の判断、結果のご説明、専門医療機関への紹介や、専門医療機関で開始した治療の継続フォローまで、ご家族と一緒に進めていきます。
検査の流れ
- 血液検査:甲状腺ホルモン(TSH・FT3・FT4)と、自己免疫の抗体検査(橋本病なら抗 Tg 抗体・抗 TPO 抗体、バセドウ病なら TRAb・TSAb)を中心に確認します。補助的にコレステロールや CK もみることがあります。
- 甲状腺エコー(超音波):甲状腺の大きさやエコーの見え方、しこりの有無を、痛みなく短時間で確認します。
- 新生児マススクリーニング:日本では出生後の早い時期に全例で甲状腺ホルモン(TSH)を測る仕組みがあります。具体的な採血時期は自治体・施設の実施要綱に準じます。
- 甲状腺シンチ:バセドウ病の評価や結節の精査が必要な場合に、専門医療機関で行います。
治療の方針
橋本病・甲状腺機能低下症
- 不足している甲状腺ホルモンを補う飲み薬(レボチロキシン=チラーヂン S)を毎日服用します。
- 開始量・維持量は、年齢・体重・症状の重さによって個別に調整します。先天性甲状腺機能低下症では、小児科の教科書で 合成レボチロキシンを 10 μg/kg で開始 することが目安とされています。
- 定期的な採血で TSH・FT4・FT3 の値をみながら、量を調整していきます。
- 多くのお子さまで長期の継続が必要ですが、量の調整は成長に合わせて少しずつ見直していきます。
バセドウ病・甲状腺機能亢進症
小児バセドウ病では、現行の小児期発症バセドウ病診療ガイドライン(2016 年)でも、まず 薬物療法を第一選択 とします。
| 治療 | 位置づけ | 補足 |
|---|---|---|
| 抗甲状腺薬(メチマゾール=MMI) | 第一選択 | 小児では MMI を中心に使います。寛解率は約 30%、再燃も少なくありません。 |
| プロピルチオウラシル(PTU) | 原則として小児には用いない | 小児では致死的な重症肝障害のリスクが高く、原則使用しません。他院で処方されている場合はご相談ください。 |
| β遮断薬 | 補助 | 動悸や手の震えなど、症状の緩和に補助的に使います。 |
| 放射性ヨウ素(131I)治療 | 限定的 | 小児では原則控え、難治例で慎重に検討します。 |
| 甲状腺亜全摘術(手術) | 限定的 | 薬の副作用が強い場合や難治例などで検討します。 |
MMI の使い方の流れは次のとおりです。
- 初期量で甲状腺ホルモンを抑え、FT4 が正常化したら少しずつ減量します。
- 維持量の目安は MMI 5mg 隔日〜5mg 連日 程度で、施設・症例によって幅があります。
- 治療は 最低 1.5-2 年は継続 し、維持量で機能が正常に保たれていれば中止を検討します。
- 副作用として、発疹、肝機能の異常、ごく稀に 無顆粒球症(白血球の一種が急に減る)があり、特に治療開始後 3 ヶ月以内に多いとされています。発熱と咽頭痛が同時に出たとき は重要なサインなので、定期受診とは別にすぐご相談ください。
先天性甲状腺機能低下症
- 新生児マススクリーニングで見つかった場合、生後 1 ヶ月以内にレボチロキシンの補充を開始 することが、神経発達のために大切です。
- その後は専門医療機関と連携しながら、成長に合わせて量を調整していきます。
当院で対応できる範囲
- 「もしかして甲状腺の病気かも」と感じた段階での スクリーニング血液検査
- 検査結果のご説明と、必要があれば小児内分泌専門医療機関への紹介
- 専門医療機関での新規診断・治療開始後、安定期の処方継続・定期評価
- 学校生活に関する診断書・連絡文書の作成
新規診断・初期治療は、小児内分泌の専門医療機関と連携して進めます。「まず相談する場所」として、当院をお気軽にご利用ください。なお、橋本病・バセドウ病は産後や思春期のお母さま自身にも比較的多い病気です。
家庭でできるケア
ご家庭での日々の関わり方は、お子さまの治療がうまく続くかに大きく関わります。「禁止」「厳禁」よりも、 無理なく続けられる工夫 を一緒に考えていきます。
飲み薬を続けるための工夫
- 毎日決まったタイミングで内服を続けることが基本です。チラーヂン S は 朝の空腹時 にお水で内服するのが一般的とされています。
- 飲み忘れに気づいたとき、吐いてしまったとき、宿泊行事や合宿で時間がずれそうなときは、自己判断で倍量にせず、当院にご相談ください。お薬の種類によって対応が変わります。
食事との付き合い方
- ヨードの過剰摂取(昆布・海苔・とろろ昆布など)は控えめにと言われますが、全面禁止ではなく「日常の和食レベルなら過剰にしない」が基本 です。給食や旅行先での個別配慮の必要性は、症状や治療段階によって変わるので、外来でご相談ください。
学校・園生活との付き合い方
- 症状が落ち着いていれば、体育・部活動・宿泊行事・修学旅行は基本的に 通常通り参加 できます。
- 症状が強い時期や、薬の調整中の時期だけ、活動量について学校と相談したり、健康診断での身長変化に注意を払ったりすることがあります。
- 学校への伝え方や診断書の内容に迷う場合は、外来でご一緒に整理します。
兄弟姉妹・ご家族のこと
- 家族歴があるお子さまは発症のしやすさがやや高くなりますが、必ず検査が必要というわけではありません。気になる症状(疲れやすさ、首の腫れ、体重の変化など)が出てきたタイミングで血液検査をすれば十分です。
通院中に気になる様子が出たときのご相談
治療中のお子さまで、次のような様子が新しく出てきた場合は、定期受診を待たずにご相談ください。
- 急な体重変化、強い動悸や疲労感が続く
- 発熱と咽頭痛が同時に出た(治療開始後 3 ヶ月以内は特に注意)
- 急に元気がなくなった、意識のはっきりしない様子がある
具体的に「いつ」「どのくらいで」受診すべきかは、お子さまの状態を直接お伺いした上で個別にご案内します。
よくあるご質問
Q. うちの子は最近イライラして集中できないだけなのですが、思春期と病気をどう見分ければよいですか?
ご家庭で見分けるのは難しいですが、血液検査をすれば比較的はっきり区別がつきます。イライラに加えて「動悸」「体重の急な変化」「手の震え」「首の腫れ」など 症状の組み合わせ が続いている場合は、一度血液検査で安心材料を持っておくのがおすすめです。気になる症状の続き方や受診のタイミングは、受診の際に個別にご案内します。
Q. 首が腫れている気がします。これは甲状腺の病気ですか?
思春期に一時的に甲状腺が大きく見える生理的なケースもあれば、橋本病やバセドウ病の初期サインのこともあります。甲状腺エコーは痛みなく短時間で確認でき、血液検査と組み合わせれば多くの場合区別がつきます。ご心配であれば、まずはご相談ください。
Q. 薬を飲み忘れた/吐いてしまった日はどうすればいいですか?
チラーヂン S(甲状腺ホルモン補充薬)と抗甲状腺薬(MMI)では対応が異なります。自己判断で倍量にすることは避けて ください。判断に迷うときは当院にご相談いただければ、お薬の種類と直近の様子に合わせてご案内します。
Q. 海苔や昆布、わかめはどのくらい控えればよいですか? 給食はどうすれば?
全面禁止ではなく 「過剰にしないこと」が基本 です。日常の和食レベルであれば大きな問題になりにくく、給食での個別配慮が必要かどうかは、症状や治療段階によって個別判断となります。気になる場合は外来でご相談ください。
Q. 学校の体育・部活・修学旅行は普通に参加できますか?
症状が落ち着いていれば、基本的に通常通り参加できます。症状が強い時期や治療の調整中の時期だけ、活動量を相談することがあります。診断書の作成や、学校への連絡文書もご相談に応じます。
Q. 兄弟姉妹も検査したほうがいいですか?
家族歴があると発症のしやすさはやや高くなりますが、全員必須というわけではありません。気になる症状が出たタイミングで血液検査をすれば十分です。
Q. 母親の私も橋本病/バセドウ病があります。子どもも調べたほうがいい? 私自身も診てもらえますか?
ご家族に甲状腺の病気がある方は、お子さまについてのご相談を歓迎します。お子さまの検査は当院で対応可能です。家族のフェーズに合わせて、長くお付き合いいただける体制を整えています。
症状についてのご相談
「この症状で受診すべき?」という判断は、お子さまの状態を直接お伺いした上で個別にご案内します。気になる症状があれば、受診をご検討ください。お子さまだけでなく、お母さま自身が気になる場合もご相談いただけます。
自由が丘キッズクリニックまるまるは、自由が丘駅から徒歩1分の小児科です。小児甲状腺機能異常をはじめ、お子さまの気になる症状は、Web または LINE からご予約ください。
参考文献
- 日本小児内分泌学会薬事委員会・日本甲状腺学会小児甲状腺疾患診療委員会. 小児期発症バセドウ病診療のガイドライン 2016. https://jspe.umin.jp/medical/files/gravesdisease_guideline2016.pdf (accessed: 2026-06-02)
- 日本甲状腺学会. 診断ガイドライン. https://www.japanthyroid.jp/doctor/guideline/index.html (accessed: 2026-06-02)
- 日本内分泌学会. 橋本病(慢性甲状腺炎). https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=41 (accessed: 2026-06-02)
- 隈病院 KUMApedia. 橋本病の診断基準(診断ガイドライン). https://www.kuma-h.or.jp/kumapedia/encyclopedia/detail/?id=198 (accessed: 2026-06-02)
- 内山聖 編. 標準小児科学 第8版. 医学書院; 2013. 第11章 内分泌疾患 C.甲状腺疾患(印刷 p.234-238)
- 医療情報科学研究所 編. 病気がみえる vol.15 小児科 第1版. メディックメディア; 2022.(代謝・内分泌疾患「甲状腺疾患」「先天性甲状腺機能低下症」 印刷 p.343-344)
この記事の監修
院長 山口いぶき(日本小児科学会 専門医)
最終更新:2026 年 9 月 10 日
このページは一般的な医学情報をご紹介するもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さまの症状については、受診のうえでご相談ください。