肛門周囲膿瘍
赤ちゃんのおしりのまわりが赤く腫れている、しこりがある、膿(うみ)が出てきた──そんな変化に気づくと、保護者の方は驚かれることが多いと思います。乳児の肛門周囲膿瘍は、肛門のすぐそばに小さな感染がおこり膿がたまる、赤ちゃんにはよく見られるトラブルのひとつです。多くの場合、清潔を保ちながら経過を見ているうちに、成長とともに自然と落ち着いていきます。ひとつだけ、膿が出てきても強く絞り出さないことを覚えておいてください。
💡 この記事の要点
- 肛門のそばに膿がたまる乳児によく見られるトラブルで、1〜2歳までに自然と落ち着きます
- おむつをこまめに替えて清潔を保ち、座浴で洗い流します。膿が出ても強く絞らないでください
- 繰り返す・複雑な痔瘻が疑われるときは、専門の医療機関へご紹介することがあります
どんな病気か
肛門周囲膿瘍は、肛門のすぐ内側にある小さな分泌腺にばい菌が入り込み、肛門のまわりの皮膚の下に膿がたまる感染症です。赤ちゃん(特に男の子)に多く見られ、1 歳前後をピークに発症し、多くは 1〜2 歳までに自然に落ち着いていきます。男の子に多い理由は完全には分かっていません。
下痢が続いていたり、おむつかぶれで皮膚が荒れていたり、便がかたくて排便時に負担がかかっていると、悪化しやすくなることが知られています。なお、思春期以降に発症するタイプは仕組みも治療方針も異なりますが、このページでは当院で扱う 乳児期の肛門周囲膿瘍 を中心にご説明します。
主な症状と気づきのポイント
保護者の方が最初に気づかれるのは、おむつ替えのときに見える次のようなサインが多いです。
- 肛門のすぐ脇が、限られた範囲で赤く腫れている
- 触れると小さくて固いしこり(ふくらみ)がある
- おむつ替えやお尻を拭くときに痛がる、機嫌が悪くなる
- ふくらみが破れて膿(黄色〜白っぽい液)や少量の血が出てくる
- ときに少し熱が出ることもある
「これって本当に肛門周囲膿瘍? おむつかぶれと違うの?」というのが、多くの保護者の方が最初に持たれる疑問だと思います。おむつかぶれは おしり全体や広い範囲がうっすら赤くなる のに対し、肛門周囲膿瘍は 肛門のすぐ脇にピンポイントで固いふくらみができる のが見分けの目安になります。ただし実際には判断が難しいことも多いので、気になるときは写真を撮っておいて、診察の際にお見せいただくと役に立ちます。
紛らわしい病気(鑑別)
おしりの赤み・腫れ・しこりを起こす病気はいくつかあり、自宅で完全に見分けるのは難しいことも多いです。代表的なものを挙げておきます。
- おむつかぶれ:肛門の周囲だけでなく、おしり全体や広い範囲が赤くなりやすい。固いしこりはできにくい
- 肛門裂傷(切れ痔):肛門の縁に縦の小さな切れ目ができ、便のときに痛がる。膿のたまりはできない
- 皮下の毛包炎・蜂窩織炎(皮膚の下にばい菌が広がる炎症):場所が肛門のすぐ脇とは限らず、赤みが広く広がることがある
- おしりにできる小さなおでき(せつ):肛門腺とは関係なく、毛穴の感染から起こることがある
実際の見分けは、診察で おしりを直接見て・優しく触れて 確認します。
当院での診断と治療
当院では、まず 見て・優しく触れて診察 することを基本とし、必要に応じて超音波(エコー)で膿のたまり方を確認することもあります。
乳児期の肛門周囲膿瘍は、多くの場合、手術をせずに保存的に経過を見ていきます。具体的には、おしりを清潔に保ちながら、自然に膿が外に出てくるのを待つ・周囲の炎症が広がっていれば飲み薬の抗菌薬を使う、という対応が中心になります。乳児期では、皮膚を切って膿を出す処置(切開排膿)は、その後の 膿の通り道(痔瘻:医学用語) を残しやすくなることがあるため、可能なかぎり避けて、自然に出るのを待つか、ごく細い針で膿を抜く方法(穿刺排膿)が選ばれることが一般的です。
排膿のあと、肛門の中と皮膚の間に小さなトンネル状の通り道(痔瘻)が残ることがあります。これも乳児期では、多くが 1〜2 歳までに自然と閉じて落ち着く ことが知られています。
当院で対応する範囲は次のとおりです。
- 視診・触診による診断、必要に応じた超音波での確認
- ご家庭でのケアの個別アドバイス
- 飲み薬の抗菌薬の処方(必要と判断したとき)
- 経過観察と、再発・悪化時の継続フォロー
- 繰り返す・複雑な痔瘻が疑われる・年齢が大きいお子さまで炎症性腸疾患(クローン病など)の関連を疑う場合 は、信頼できる小児外科・小児消化器の専門医療機関へご紹介します
なお「すぐに切ったほうがいい」と他院で言われた場合でも、乳児期では一度ご相談いただき、一緒に方針を考えることをおすすめしています。
家庭でできるケア
ご家庭での基本は 「清潔を保つこと」と「お尻に負担をかけないこと」 のふたつです。
おしりを清潔に保つ
- おむつをこまめに替える(便の付着時間を短くする)。下痢が続くおむつかぶれの環境は悪化の大きな要因です
- 排便後は、こすらずに ぬるま湯(38〜40 度くらい)で優しく洗い流す。ガーゼやコットンを当てて押さえるように水分を取ります
- 入浴は基本的に問題ありません。シャワーや浴槽で 1 日数回、おしりをぬるま湯にやさしく浸す(座浴) ことで、清潔保持と痛みの緩和の両方が期待できます。洗面器やベビーバスにぬるま湯を張って、1 回数分が目安です
- きょうだいへうつるような病気ではないため、過度な隔離は不要です
膿が自然に出てきたとき
- 清潔なガーゼで やさしく押さえて 膿を吸い取り、ぬるま湯で洗い流す
- 強く絞ったり、押し出したりしない。これはばい菌を奥に押し込んでしまったり、まわりの組織を傷つけたりして、かえって悪化させてしまうためです
- おむつをいつもよりこまめに替え、皮膚が湿った状態を続けないようにする
便を整える
- 便がかたいと排便のたびに負担になります。水分をこまめに、月齢に合わせて 食物繊維(野菜・果物・海藻など) を意識していただけると安心です
- 便秘が続くときは、便を柔らかくする飲み薬を相談できます
市販の塗り薬について
乳児の肛門周囲膿瘍に対して 抗菌薬の塗り薬をご家庭で自己判断で使う必要は基本的にありません。当院で処方された薬がある場合のみ、指示どおりにお使いください。
よくあるご質問
Q. おむつかぶれと見分けるポイントはありますか?
A. おむつかぶれはお尻全体や広い範囲がうっすら赤くなることが多いのに対し、肛門周囲膿瘍は 肛門のすぐ脇に限られた範囲で固いふくらみ ができやすいのが目安です。ただし両方が重なっていることもあるため、写真を撮っておいて診察時にお見せいただくと判断しやすくなります。
Q. 膿が自然に出てきました。どうすればいいですか?
A. 強く絞ったり押し出したりせず、清潔なガーゼで吸い取り、ぬるま湯でやさしく洗ってください。おむつをいつもよりこまめに替えていただければ、その日のうちにあわてて受診される必要はないことが多いです。経過のご相談はお気軽にどうぞ。
Q. お風呂やシャワーは入れていいですか?
A. はい、基本的に入れます。むしろ清潔を保つうえで役立ちます。ご家族と湯船を共有しても問題ありません。ぬるめのお湯に短時間つかる程度が目安です。
Q. 痛がって座れない・泣いて眠れないときの工夫はありますか?
A. おむつをゆるめにする・座面にやわらかいタオルを当てる・横向きで寝かせる、といった工夫で楽になることがあります。ぬるま湯でそっと洗うと一時的に痛みがやわらぐお子さまも多いです。
Q. 便秘ぎみだと悪くなりますか?
A. かたい便での排便は負担になり、悪化しやすくなります。水分・食物繊維を意識し、便秘が続くようなら 便を柔らかくする薬 をご相談いただけます。
Q. 一度治っても繰り返すと聞きました。再発したら同じ対応でいいですか?
A. 乳児期は繰り返しやすい傾向がありますが、多くは成長とともに落ち着きます。 場所・回数・どのくらいで治ったかを記録 していただけると、次回の診察で経過の判断に役立ちます。
Q. 手術が必要になるのはどんなときですか?
A. 乳児期はほとんどが手術なしで経過を見ます。繰り返したり・複雑な痔瘻が残ったり・年齢が上がっても続く場合などに、小児外科の専門医療機関と相談しながら治療方針を考えます。具体的なご判断はお子さまの状態をお伺いしたうえでご案内します。
症状についてのご相談
ここまで読んでいただいて、不安が残るのは自然なことです。「この症状で受診したほうがいいかな」というご判断は、お子さまの様子や写真を見ながら一緒に考えますので、受診をご検討ください。
自由が丘キッズクリニックまるまるは、自由が丘駅から徒歩1分の小児科です。肛門周囲膿瘍をはじめ、お子さまの気になる症状は、Web または LINE からご予約ください。
参考文献
- MSD マニュアル プロフェッショナル版『肛門直腸瘻および直腸周囲膿瘍』. https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/02-%E6%B6%88%E5%8C%96%E5%99%A8%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%82%9B%E9%96%80%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4/%E8%82%9B%E9%96%80%E7%9B%B4%E8%85%B8%E7%98%BB%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E7%9B%B4%E8%85%B8%E5%91%A8%E5%9B%B2%E8%86%BF%E7%98%8D (2026-06-02 閲覧)
- 東京医科大学 消化器・小児外科学分野『小児外科の治療(肛門周囲膿瘍含む)』. https://team.tokyo-med.ac.jp/syoukakigeka/organ/prediatricsurgery.html (2026-06-02 閲覧)
- 医療情報科学研究所 編. 病気がみえる vol.15 小児科 第1版. メディックメディア; 2022.(消化器「小児の直腸・肛門疾患」肛門周囲膿瘍 印刷 p.200)
この記事の監修
院長 山口いぶき(日本小児科学会 専門医)
最終更新:2026 年 9 月 20 日
このページは一般的な医学情報をご紹介するもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さまの症状については、受診のうえでご相談ください。