起立性調節障害(OD)
朝起きられない、立ちくらみ、午前中ずっとつらそう —— これは「サボり」や「気合いが足りない」ではなく、思春期前後のお子さまに多い自律神経の病気です。小学校高学年から高校生の年代に出やすく、午前中つらく夕方からは元気になるという日内のリズムが特徴です。多くは思春期後半から成人にかけてゆっくり落ち着いていく見通しがあります。このページでは、病気のしくみ・診断の流れ・ご家庭でできる工夫を順番に確認できます。当院では、お子さま・ご家族の生活全体を一緒に整理しながら、無理のないペースで診ていきます。
💡 この記事の要点
- 思春期に多い自律神経の病気で、サボりや気合い不足ではなく午前中つらく夕方に元気になります
- 水分と塩分を意識してとり、横向き→座位→立位の順でゆっくり起こし、無理せず見守ります
- 立ちくらみが続く・つらさが強いなど気になる様子があれば、受診をご検討ください
どんな病気か
起立性調節障害(OD)は、立ち上がったときに体を自動で調節している神経(自律神経)のはたらきが一時的にうまく追いつかず、めまい・立ちくらみ・朝起きられないなどの症状が出る病気です。
起立性調節障害の原因は「気持ちの問題」でも「生活のだらしなさ」でもありません。原因は自律神経の調節が体の成長に追いついていないことにあります。背景には、思春期に身体がぐんと大きくなる一方で、心臓や血管の成長がそれに追いついていない —— というアンバランスがあると考えられています。立ち上がると下半身に血液がたまりやすくなり、脳に届く血流が一時的に少なくなることで、立ちくらみや動悸が起こります。
- 同世代(小学校高学年〜高校生)の およそ 5〜10% に見られる、決して珍しくない病気です
- 思春期女子にやや多い傾向があります
- 不登校のお子さまの 3〜4 割でこの病気が背景にあるとも言われています
医学的には、症状のタイプによって以下のように分けられています(ご家族が覚える必要はありません。診察で必要に応じてご説明します)。
- 起立直後性低血圧(INOH) — 立ち上がった直後に血圧がストンと下がってしまうタイプ(最も多い)
- 体位性頻脈症候群(POTS) — 立ったときに脈だけが急に速くなるタイプ
- 血管迷走神経性失神(VVS) — 立っているときや嫌な刺激で、フッと意識が遠のいてしまうタイプ
- 遷延性起立性低血圧 — 立ってしばらくしてから血圧が下がってくるタイプ
主な症状と気づきのポイント
「うちの子の朝のつらさは本当にサボりじゃないの?」 と迷われる保護者の方は、とても多くいらっしゃいます。次のような状態が続いている場合は、OD の可能性を一緒に整理してみる価値があります。
よく見られる症状
- 立ちくらみ・めまい
- 立っていると気分が悪くなる、フッと意識が遠のく
- お風呂や嫌なことがあったときに気分が悪くなる
- 少し動いただけで動悸・息切れがする
- 朝なかなか起きられず、午前中ずっと調子が悪い
- 顔色が悪い
- 食欲が出ない
- 朝の腹痛
- すぐに疲れてしまう
- 頭痛
- 乗り物に酔いやすい
「サボり」と誤解されやすい理由
OD のお子さまは、午前中は本当につらそうなのに、夕方から夜にかけては元気になるという日内のリズムをもつことが多くあります。このため周囲から「怠けている」「気合いが足りない」と誤解されやすく、ご本人もご家族も自分を責めてしまいがちです。これは病気の特徴であって、性格や努力の問題ではありません。
※ 正式な医学的診断では、上にあげた症状を「大症状」と「小症状」に分け、起立試験での血圧・脈の変化(検査でみる客観的な所見)と組み合わせ、さらに他の病気でないことを確かめたうえで判断します。チェックリストでの自己診断は難しいので、気になる症状が続くときはご相談ください。
紛らわしい病気(鑑別)
朝のつらさや立ちくらみは、OD 以外の病気でも起こることがあります。当院では問診と必要な検査で、以下のような病気が隠れていないかをひとつずつ確かめていきます。
- 甲状腺のはたらきの異常 — 体重・体温・脈などに全身の変化が出ることがあります
- 副腎のはたらきが弱くなる病気 — 慢性的な疲れや皮膚の色の変化を伴うことがあります
- 貧血(特に鉄が足りないタイプ) — 立ちくらみの原因として頻度が高く、OD と合併していることもあります
- てんかんの一部のタイプ — まれに「気を失う」症状の原因となります
- 寝ている間に呼吸が止まる病気(睡眠時無呼吸) — いびきや日中の眠気が手がかりです
- 気持ちの落ち込みや適応の難しさ(抑うつ・適応障害など) — 体の症状と気持ちの状態の両面に目を向けます
当院での診断と治療
診断の流れ
- 問診 — お子さまの 1 日の体調の波、睡眠、学校・ご家族の状況などをていねいに伺います
- 新起立試験 — ベッドに 10 分間ゆっくり寝ていただいたあと、立ち上がってもらい 10 分間、血圧と脈拍を測ります。採血のような痛みはありません。OD のタイプを見分けるための、最も大切な検査です
- 他の病気の除外 — 必要に応じて血液検査(甲状腺・貧血など)や、心電図・ホルター心電図(小さな機械を 1 日つけて心臓の動きを記録する検査)を行います
治療の基本
治療の中心は 「生活全体を整えること」 と 「ご家族・学校の理解」 です。お薬は症状が強い場合の補助という位置づけで、すぐに飲み始めるわけではありません。
生活指導(最も大切)
- 十分な水分摂取:1 日 1.5〜2 リットルを目安に
- 塩分の意識的な摂取:1 日 10 g 程度(成人の摂取目標を上回るため、必ず医師の指示のもとで行います。通常の食事では行いません)
- 規則正しい睡眠
- 急に立ち上がらず、段階的に起きる
- 日中はなるべく屋外で、散歩などの軽い運動をして下半身の血流を保つ
- 入浴で長くのぼせると立ちくらみが出やすいので、湯上がりに足へ冷水をかけて血管を引きしめるのもおすすめです
- 重症の場合は、医療用の少しきつめのストッキング(弾性ストッキング)を使うこともあります
お薬(必要な場合に)
- ミドドリン塩酸塩(メトリジン®) — 血管をすこし締めて血圧を保ちやすくする飲み薬。少量から始めます
- アメジニウム、プロプラノロール — 症状のタイプによって選ばれることがある別系統のお薬
ご家族・学校との連携
- 学校への診断書・配慮依頼書の作成
- 遅刻・欠席への配慮のお願い
- 不登校や気持ちの落ち込みを合併している場合は、児童精神科と連携してご紹介
当院は小児科として OD の診断・新起立試験・生活指導・薬物療法・学校診断書まで一通り対応します。
家庭でできるケア
「家ではまず何をしてあげればいいの?」によくいただくご相談から、現実に落とし込みやすいかたちでまとめました。
水分と塩分の工夫
- 水だけだとどうしても摂りにくいので、経口補水液・お味噌汁・塩おにぎり・梅干しなどを組み合わせる
- スポーツドリンクは糖分が多めなので、水で薄めるのも一案
- 小さいペットボトルを学校に持たせ、こまめに飲める形にしておく
朝の起こし方
- いきなり起こさず、横向き → 座位 → 立位 の順で、それぞれ少し時間をおく
- 起きる時間の少し前にカーテンを開け、光を入れておく
- 起きてすぐは、軽くでも何かを食べる(おにぎり 1 個 + お味噌汁、バナナなど)
症状が出たその場で
- 立ちくらみを感じたら、無理せずしゃがむ・横になる
- 横になれるときは、足を少し高くする
- 落ち着いたら水分を摂る
ご家族みんなで知っておきたいこと
- 「怠けている」「気合いが足りない」と決めつけない —— OD は本人の意思では起きられない病気です
- 兄弟姉妹や祖父母世代にも、「医学的な病気である」ことを伝える(必要なら診断書をご家族で共有)
- 学校との連携(遅刻・体育への配慮など)はご家族だけで抱え込まず、当院にもご相談ください
よくあるご質問
Q. サボりや甘えに見えてしまい、つい叱ってしまいます。どう接したらいいですか?
OD は自律神経のはたらきがうまく追いつかなくなる病気で、ご本人の意思では起きられません。叱責は症状を悪化させやすく、まずは「つらいよね」と受け止める姿勢が、回復のいちばんの土台になります。接し方に迷うときは、受診の際に個別にご相談ください。
Q. 水分・塩分はどんなものでとらせるのが現実的ですか?
水だけでは飲みにくいので、経口補水液・お味噌汁・塩おにぎり・梅干しなどを組み合わせるのがおすすめです。スポーツドリンクを使う場合は、糖分が多めなので水で薄めて使うご家庭もあります。塩分量は医師の指示のもとで調整するので、まずは「意識して足す」程度から一緒に始めましょう。
Q. 新起立試験は痛い検査ですか?子どもが怖がります。
採血のような痛みはありません。ベッドに 10 分間ゆっくり寝てもらってから、立ち上がってもらい 10 分間、血圧と脈を測るだけの検査です。お子さまの不安にも配慮しながら、ゆっくり進めますのでご安心ください。
Q. 薬は必ず飲まないといけませんか?飲み始めたらやめられなくなりませんか?
治療の中心は生活指導で、お薬は症状が強い場合の補助という位置づけです。症状が落ち着いてくれば、減量や中止も診察で相談しながら進められます。
Q. 学校にはどう伝えればよいですか?診断書はもらえますか?
当院で診断書・配慮依頼書を作成できます。遅刻や出席日数、体育の参加方法などについて学校に配慮をお願いするための書類です。具体的な内容は受診時にご一緒に相談しながら整えます。
Q. 改善までどれくらいかかりますか?焦らなくていいですか?
お子さまによって個人差はありますが、多くは思春期後半から成人にかけて、ゆっくり落ち着いていく見通しがあります。短期で結果を求めず、生活のリズムから少しずつ整えていく姿勢で大丈夫です。
症状についてのご相談
「この症状で受診すべき?」「うちの子の場合はどうしたら?」 —— こうしたお迷いは、お子さまの状態を直接お伺いしたうえで一緒に整理させてください。気になる症状があれば、受診をご検討ください。
自由が丘キッズクリニックまるまるは、自由が丘駅から徒歩1分の小児科です。起立性調節障害(OD)をはじめ、お子さまの気になる症状は、Web または LINE からご予約ください。
参考文献
- 一般社団法人 小児心身医学会. 起立性調節障害. https://www.jisinsin.jp/general/typical_diseases/%E8%B5%B7%E7%AB%8B%E6%80%A7%E8%AA%BF%E7%AF%80%E9%9A%9C%E5%AE%B3/ (accessed: 2026-06-02)
- 日本小児心身医学会. 小児心身医学会ガイドライン集 改訂第 2 版(OD ガイドライン含む). 南江堂; 2015. https://www.nankodo.co.jp/g/g9784524261659/ (accessed: 2026-06-02)
- プライマリケアで使える OD 診療ガイドライン. 小児科学雑誌. https://mol.medicalonline.jp/newbunken?GoodsID=ee8jjspp%2F2022%2F003004%2F024&name=0509-0511j (accessed: 2026-06-02)
- 一般社団法人 起立性調節障害改善協会. https://odod.or.jp/ (accessed: 2026-06-02)
- 内山聖 編. 標準小児科学 第8版. 医学書院; 2013. 第17章 循環器疾患「起立性調節障害(OD)」(p.476-477)
- 医療情報科学研究所 編. 病気がみえる vol.15 小児科 第1版. メディックメディア; 2022.(循環器疾患「起立性調節障害(OD)」 印刷 p.297)
この記事の監修
院長 山口いぶき(日本小児科学会 専門医)
最終更新:2026 年 8 月 29 日
このページは一般的な医学情報をご紹介するもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。お子さまの症状については、受診のうえでご相談ください。